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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第4章 Valet & Earl 〜従者と伯爵〜
ふと、マレー執事の重々しい言葉が甦る。
『お前の失態で、旦那様の価値が損なわれることだけはないように』
一瞬、躊躇し…しかし、頭を振った。
…マレーさん。ごめん。俺は従者失格だ。

狭霧は毅然と口を開いた。
「俺のことは何を言っても構わない。
けれど、北白川伯爵と和彦のことを侮辱することだけは許さない。
お前みたいにクズで最低のゲス野郎には、二人の名前を口にする資格なんかないんだよ…!」

西条の狐目が怒りで釣り上がる。
「ああ?なんだ?その口の聞き方は。
お前は従者だろう?
平民出身の使用人だろう?
おまけに卑しい男娼のくせに…!
お前なんか、顔と身体だけが取り柄のただの男妾じゃないか!
…あのお綺麗で尊大な大貴族の北白川にどうやって取り入ったんだ?
寝技か?
…山科を籠絡した時みたいにな?」
挑発的に顔を近づける男の襟首を狭霧が掴んだ瞬間、その穏やかな美声は聞こえた。

「…失礼。
私の従者に込み入った御用がお有りですか?」


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