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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第4章 Valet & Earl 〜従者と伯爵〜
またもや狭霧は、鳩が豆鉄砲を食らったような貌をする羽目になる。
「へ?
踊る…て…?」
「ワルツだよ。
踊ったことはあるか?
私の屋敷ではクリスマスの晩に使用人たちの舞踏会を開くのが恒例なのだよ。
無礼講で自由に誰とでも踊れる…ね。
もちろん私も踊る。
ちなみに私はいつも料理長のモリスさんと一番に踊るのだよ。
だから、従者の君もワルツくらい踊れないと困るのだ」
「…す、少しは踊れるけど…じゃなくて!
男同士で?
バルコニーで?」

伯爵は美しい眼を細め愉しげに辺りを見渡した。
「ああ、そうだ。
男同士のワルツ…。
なかなか倒錯的で良いじゃないか。
バルコニーでワルツ…。
まるでロミオとジュリエットだな。
実にロマンティックだ。
…随分とお転婆で口の悪いジュリエットだがね」
くすくすと笑い出す伯爵を、やや呆れた眼差しで見上げる。
「あんたはもう…なんでも面白がりすぎ…」
「人生は楽しんだ者の勝ちだ。
私はEdwardianなのだよ」

…Edwardian…エドワード王朝の貴族や上流階級の人々の趣味や趣向、生き方をそう評するのだ。
狭霧の脳裏に先刻の伯爵とモロー夫人のラブシーンが鮮やかに甦る…。
…少し…いや、かなり腹立たしい。
なぜに腹立たしいのかは、考えないことにするが。

「… Edwardian…ね。
華やかで優雅で快楽的で…て?
確かにね。そうかも知れないね。
…まあ、あんたはただの享楽主義者には見えないけれど、酔狂ではあるね。
だって、こんな…」
…あ…!
と、狭霧は息を呑む。
驚いた瞬間にはもう、その大きなしなやかな手に引かれ、狭霧は伯爵の腕の中にいたのだ。
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