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花の香りに酔う如く
第22章 沙羅双樹の想い③〜律
「沙羅ちゃん?」


庭で佇んでぼんやりしている沙羅ちゃんは、
びっくりするほど綺麗で、
そっと声を掛けた。


ゆっくり振り返ると、
柔らかい表情で微笑んでくれる。



「律さん、これ、知ってる?」
と言う。



「これね、沙羅の樹なんですって?」


「えっ?」


「沙羅はキリスト教ではね、
結構古くからあるメジャーな名前なの。
聖書に出てくるし。
でもね。
お義母様が、
律さん達と同じで、
沙羅ちゃんも仏教に因んだお名前なのねって教えてくださったの」


「そっか。
沙羅双樹だね?」


「そうなんです。
でもね。
これ、本当の沙羅双樹じゃないんですって。
インドの沙羅双樹は、
日本の気候だと育たないから、
日本ではこの樹を沙羅双樹って呼んでるそうです。
沙羅っていう名前も同じかな?
ひとつの名前だけど、
キリスト教の名前でもあったり、
仏教に因んでる名前でもあって。
しかもね。
インドと日本では違う樹なの。
でも、それぞれに愛されてるのね?」



僕は、僕達三人のことを言われてるような気がしてしまって、
思わず黙り込んでしまった。



「律さん。
沙羅、幸せね?
でも、律さんは嫌じゃないの?」
と、沙羅ちゃんが少し思い詰めたような顔で僕を見上げた。
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