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幼なじみと月祭
第1章 -幼なじみと月祭-
「迅…! 助けて…っ」

涙に濡れながら迅に救いを求める。

迅は黒い霧を力一杯わたしから引き剥がして、
結界のほうへ投げ捨てた。



『月祭… 妨ゲル者…
 呪… 呪呪呪… 呪…』

ザワザワと声が響いた後、
黒い霧は迅の背後へと吸い込まれ消えていった。

「うぅ…っ 怖かった…っ 」

黒い霧に処女を奪われなくて助かったけど、
幼馴染に恥ずかしい姿をみられてしまった。

「大丈夫か、みなみ! 怪我とかしてないか?」

恐怖と発汗のせいでぐったりと頷く私に、
迅は気遣いながら優しく水を飲ませてくれて、
紳士的に介抱してくれている。

あんな事の後でも、
迅がそばにいてくれたらもう大丈夫と思える。
私が落ち着く様子を見て、迅が言った。

「そういやあの髪飾り、見つけたぞ」

「あ、ほんとだ!
 ありがとう 迅!」

差し出された髪飾りを受け取ろうとして、
2人の手が重なり合った瞬間、
迅がぴくっと反応して、動きがとまった。


ふいに雲が途切れ、
月明かりが 私の濡れた体を妖しく照らしだす。

光をあびた私の肌は発情の色に染まっていて、
性を思わせる淫らな香りを漂わせていた。
お腹の奥底が燃えるみたいに熱い。



迅の顔を見ると、
今まで見た事もないような鋭い目をしている。
オスの獣みたいな眼光が私の肌に降り注ぎ、
呼吸が熱を帯びて、切ない吐息へと変わった。

「迅…?」

やんちゃで無邪気だった幼なじみの中に眠っていた、
その野性が目覚める瞬間を目の当たりにして、
私の鼓動は高鳴っていく。

「…っ!」

荒ぶる吐息を抑え込みながら、
迅は自制心を奮い起こすように目をきつく閉じ、
頭を左右に振った。



そして優しく、「帰ろう」と迅が囁いた次の瞬間。

闇の中から突然あの黒い霧が噴き出し、
迅を覆い尽くした。
そして霧は口から彼の体内へと侵入していく。

「う…っ!  ウウゥ…」

苦しそうにもがき抗いながらも、
黒い霧の侵入を防ぐ手立てはなくて、
ついに迅自身の意識は消えてしまった。

少しの静寂のあと、
黒い霧に取り憑かれてしまった迅は低い声で呻きながら私を見つめる。

『月祭ノ… 生贄…』

満月に照らされた迅の唸り声が闇夜に響く。
怯える私の体は、緊縛されたように動かなくなる。

もう何処にも、逃げ場はない…



♡第4夜へ続く♡
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