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北の軍服を着た天使
第2章 Episode 2


この前も停めたタイムズパーキングに駐車し、暑い日差しにうんざりしながらスタートレントビルまで歩いている途中、道端に停められた最新型のプラドに目が止まる。確か予約しても二年待ちとかの人気商品だった気がする。

……ここらへんは大使館もあるし、そりゃあお金持ちも多いから必然的に車好きも多くなるよな。と意味の無い事を考えながら、そう自分を納得させた時──本当に突然、背後から強い力で肩を捕まれビルの正面入口の横に有る僅かな隙間に引き込まれた。

「えっ…ちょっ…ウッ……」

まともに悲鳴を上げられない中…【声を出すな】と英語で囁かれた私の口元には柔らかくて白い手。
こんな手からこんな力が出るなんて信じられない…。呑気にそんな事を思っていると、突然ギュッと首元に男の肘が入り私の呼吸を浅くさせた

「……そのまま後ろを向け」

「………ッ…!」


聞いた事のある気がする、低くて少し掠れた声。言われた通りに後ろを向いた私は、驚きのあまり抵抗する事さえ出来ずにそのまま細くて薄暗いビルとビルの隙間の道を歩き出した。


「そこのドアを開けろ」


「──……ッ、キャッ!」



何も逆らっていないのに…。

言われた通りドアを開けると同時に、思い切り突き飛ばされた私は、思わず汚い地面に尻もちを着いた。


あのドアは──このビルに入る裏口だったんだ。

と納得してから、敢えて見ない様にしていた男の顔をゆっくりと見上げる。



「……あ、あなた…」

「うるさい。そのまま荷物を持ってエレベーターではなく非常階段で上がれ。」


──そう、私の目の前に居たのは……

私の肩を掴み強引に路地裏に引っ張ったのは……


あの時、北朝鮮で私の命を救ってくれた『テヒョン様』と呼ばれる、あの男だった。



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