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北の軍服を着た天使
第1章 Episode 1
一言で言えば、26万円の北朝鮮旅行は、ロエベの新作バッグよりも価値があった。世界一危険だと評される中国と北朝鮮を結ぶ高麗航空や、今時有り得ないほどの入国前の念入りな持ち物検査から始まったツアー。
日本人観光客は私だけだったので、日本語ガイドと云う名の見張り役女性とバス運転手三人の実質、貸切旅行だった。
日本のバブル期を思わす作りの高麗ホテル、ホテル付属の高級レストランで出された日本では捨てる魚であるボラを使った❝特製魚鍋❞、軍事パレードでもよく見かける最高指導者の写真を飾った金正日広場、ソ連の様な横に長い壮大な建物の朝鮮労働党、地下シェルターの役割も果たす平壌駅地下鉄のホーム……
あの時に撮影した写真を見ただけで、ガイドさんの説明を簡単に思い出す位私の心に深くインプットされている。世界を知る良い経験にお金を払えた事は確かだろう。
でも、私が北朝鮮旅行の中で一番心に残っているのはガイドの女性と朝鮮統一について話した深い内容の事でも、お酒を飲みながら歌を歌った事でも、彼女から嫌というほど聞かされた❝偉大なる国民のお父様❞の話でも無い。
………あの出会いだった。