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鬼の哭く沼
第7章 花は綻ぶ
ゆっくりと抱え上げた身体を褥の上に横たえられる。須王にとっては軽過ぎる程に軽い、華奢な身体。硝子細工の繊細な飾りを扱うように、そっと柔らかな布地に降ろされる。
枕に散る黒髪へふと視線をやり、須王が唇に笑みを刻んだ。
「花…いや、桃の香りがするな」
「え?あ…ああ、ここへ来る前にお風呂に入ってきたから…」
そうか、と頷きつつ顔を寄せ、首筋の匂いを嗅がれて頬に熱が灯る。
顔が近い。
何も身につけていない須王の逞しい首筋から胸板までが視界を埋め、羞恥であちこち目線が彷徨う。蝋燭の明かりの元で見るのとは違い、障子窓からの朝日は香夜に余す所なく須王の全身を見せつけてくる。色素の濃い焼けた肌の色や、肉食獣のようなしなやかで美しい筋肉が克明過ぎて目の毒とはこの事だ。
今から、この美しく逞しい男に抱かれるのだと思うと全身が震えた。
「本当に…お前はどこもかしこも甘い匂いがする」
一筋、髪を掬って口づける仕草に香夜の顔が朱色に染まる。かあっと上がる全身の熱に意識を逸らした隙に、夜着を閉じる帯の結び目が解かれ袷をそうっと開かれた。
身体が熱い所為だろう、外気がやけに冷たく感じてふるりと震える香夜を須王が抱き締める。
「すべて喰らって、俺だけのものにしてやりたいと…ずっと思っていた」
「あっ……」
ちくりとした痛みに声を上げる。耳朶を掠め、首筋に降りた唇が薄い肌をなぞりながら時折強く吸い付き痕を残す。吐息を漏らして反らした喉に、軽く歯を立てられて香夜の肩がびくっと跳ねた。
「んっ、ぁ…まって…」
「もう、充分過ぎる程待った。これ以上は待てん」
「んん……っ」
もう喋るなとばかりに、噛みつくように唇を奪われる。
呼吸をしようと僅かに開いた隙間から肉厚の舌が差し込まれ、歯列をなぞってその奥にある香夜の舌を探る。舌先が上顎をくすぐる度生まれるむず痒いような何とも言えない感覚。それから無意識に逃げようとした頭を須王に遮られ、より強く深い口づけを求められる。
須王の言葉通り、本当に喰われてしまいそうだ。そして例え喰われてしまうのでも須王にならば、と考えてしまう位には香夜の意識も溶け始めているのだろう。
初めはおずおずと、しかし確かに自分から、口腔を犯す舌に自分の舌を絡ませてみる。途端、口付けは一層激しくなり、何度も角度を変えて深く求められた。