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鬼の哭く沼
第8章 溺れる魚

九泉楼の地下深く、陽の届かぬ石壁に囲まれた牢獄。
ひんやりとした土の床に直に置かれた申し訳程度の畳と、心細気に蝋燭の灯を揺らす行灯のみが調度品の小さな座敷牢だ。その大きさは一人がやっと横になれる程度。
元は足抜けした遊女の折檻部屋だったが今はほとんど使われなくなって久しいその場所に、女が一人。深く俯き、下ろした髪に隠れて顔は全く見えない。薄色の簡素な着物を纏い、身じろぎ一つもせず座っている。


「……貴蝶」


石壁に右半身を凭れかけるようにして座っていた女は、ぴくりと肩を震わせゆっくりと顔を上げる。その緩慢な動きに合わせ、縺れた髪の隙間から青白い顔が見えた。
凛と切れ長だった目の下には色濃い隈が出来、唇は乾いてひび割れ、頬も血色を失い紙のように白い。
以前の、不遜な笑みの似合う美しかった女の姿はそこには無く、精気の無い瞳が虚ろに自分を呼んだ声の主を見上げる。


「楼主、様…」


掠れ、今にも消えてしまいそうな声。
貴蝶はその瞳にほんの少しだけ熱を灯しかけ、けれどすぐさま元の無色に戻った。ただ、周囲を映して透化するだけの硝子玉のような瞳。
彼女の些細な変化に気付いたのか気付いていないのか…はたまた、気付かない振りをしているのか。須王は冷たく牢の中と外を隔てる頑強な鉄格子に近寄り、貴蝶を見た。

貴蝶、とは彼女が望んで自らに付けた源氏名だ。本当の名は覚えていない。知りたいとも思わなかった。そこまでの興味が須王には無かったから。
幾度となく肌を重ねた相手。恋い焦がれるような愛情は無かったが、傲岸に他を見下し己を磨き、ただひたすら須王一人だけに縋る姿を好ましいとは思った。
薔薇のような女だ、と。
鋭い棘故に誰からも近付かれず、己の美しさのみを武器に咲く孤高の花。その花が自分にだけ甘く棘を緩める様は嫌いではなかった。
長い年月の間イロとして囲った女は数多く居たが、貴蝶はその中でも群を抜いて長く須王に侍った女だった。

その貴蝶が、こうして牢の中で髪も結わず、化粧一つ、玉飾り一つせず薄汚れた畳に座している姿から目を逸らす事無く見据える。
嫉妬に狂い犯してならない掟破りに手を染めた女。その理由に知らぬ振り出来る程、須王は厚顔でも冷徹でもない。
これも己に課せられた罪の姿だと、理解していた。
いつだってこの身はこうして罪しか作らない。

呪いを受けた日から、ずっと。


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