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混沌の館
第6章 30代バツイチの美女
 店員に案内され席に移動する時も後ろ手に久美の手を握り歩いていく。こんな年になって子供以外と手を握ることになるとは思ってもみなかった。


 私の手のひらは緊張でかすかに汗ばんでいた。


 席に座ると、照明のせいか久美のワンピースが薄いピンクに見えた。ついつい胸の隆起している部分に目が行ってしまう。

 私は邪念を振り払うようにメニューを取ると、久美に見せた。久美がメニューを覗きこみ、私も同じように覗き込む。お互いの顔が近くになり、久美の甘い香りが私の鼻をくすぐった。私は、ゆっくりと息を吸い込み、そのバニラのような甘い香りの記憶を脳に送り込んだ。



 ああ、久美を抱きたい。匂いに反応した本能が私の下半身に集中していく気がした。



「ご注文はお決まりでしょうか?」

 突如かけられた声に、私ははっとした。女性の店員が注文を告げろと催促していた。


 私は、さっさと立ち去れとばかりに適当に料理を注文して店員を追い払った。


 店員がメニューを下げて立ち去ると、久美が姿勢を正し、ポツリポツリと話し始めた。仕事上の愚痴だった。



 久美は、病院の事務職だが、新参者の自分は古参の事務職の女性から嫌われているというのだ。その病院では事務職では久美が一番若く、他の病院スタッフにも受けが良いのでねたまれているというのが理由らしい。

 私の職場でも女性同士の軋轢は日常茶飯事だから、そういう悩みは何となく理解できる。久美の愚痴に、私は時折同調しながら耳を傾けていた。





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