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お前の奥さん、やられちゃうぞ!
第1章 お前の奥さん、やられちゃうぞ!
それよりも美樹である。
急いで部屋に入り、美樹を探す。
大きなベッドに力なく横たわっている。
拘束は解かれているが、あの男どもは美樹を捨てて自分たちだけ逃げたのだ。
再び怒りがこみ上げてくる。
美樹を抱き起こすと、
「あなた…」
美樹はオレの胸に顔を埋めた。
「あなた…、早く逃げないと…」
「火事じゃない。オレたちがおまえを救うために仕組んだんだ。
大丈夫か?けがは無いか?」
美樹は小さな声で言った。
「大丈夫です。…。その…、行為は無かったのよ。」
美樹が服を着るのを手伝う。
もう一度オレは確かめる。
「病院に行かなくていいのか?」
美樹は、
「早く…家に帰りたいわ。」
よろめくように歩く美樹を支えるようにして歩いた。
美樹は、ずっとオレにしがみついていた。
暗闇の駐車場にスクーターは、停まっている。
美樹は、
「あなた、大丈夫?」と聞く。
美樹と付き合い始めてすぐにオレはバイクを売ってクルマを買った。
美樹とは、数回、ほんのわずかな時間タンデムで乗っただけだ。
オレは、20年振りの2輪だ。
美樹のヘルメットのあごひもを締めてやる。
スクーターの低いシートは初めてなので不思議な感覚だ。でも、すぐに慣れる。
美樹は、ずっとオレにしがみついている。
美樹の体の重み、暖かさを感じながら、オレはスクーターを走らせた。
走りに慣れてくると、気分が良くなってきた。
スピード、スリル、わくわくする加速感、爽快感。夜風が心地よい。そして何よりも美樹との一体感。
夜景が後ろに飛び去っていく。愛する者と2輪に乗る事って、こんなに気持ちのいいものか。
安堵。愛する美樹を取り返すことのできた安心感。どっと疲れが出た。でも、疲労感は感じない。
オレも美樹も、一緒にいる実感をしっかりと感じとっている。
美樹とのタンデム。
古瀬の演出だとしたら、たいした野郎だ。
あの時、よくここまで考えたよな。
さっきまで泣きべそだった美樹も、ようやく元気が出てきた。
オレは美樹に話しかけた。
「どこまでも走って行きたい気分だね。」
「そうね。気持ちいいわ。」
二人は甘い恋人達のように心が通うのを感じながら、家路を急いだ。
(おしまい)