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茅子(かやこ)の恋
第2章 夜勤
10時を回り長い夜勤が終わった。結局仮眠は全く取れず茅子は疲れを感じていた。そしてふと外を見ると雨が降っていた。昨日見た天気予報は全く外れていた。

「小林さん、雨だよ。傘持ってる?」
タイムカードを押すため事務所に寄ると、施設長が声をかけた。その言葉を待っていたように、帰り支度を終えた翔太が口を挟んだ。

「主任、よかったら送りますよ」
翔太は車で通勤していた。そして茅子のマンションの方向にアパートを借りていた。施設長は当然、それを知っている。

「吉田の運転、危なくないか?」
冗談交じりに施設長が笑っていた。そしてその視線は茅子に向かっていた。

「前にも送ってもらったけど、案外安全運転ですよ」
茅子はふたりを見ながら笑って答えた。翔太が施設長にドヤ顔を向けていた。

「じゃあ吉田、居眠りすんなよ!」
「大丈夫っス。施設長の大事な主任、責任を持って送らせてもらいます!」
少しドキッとした顔で施設長が頷いた。回りの事務員が目を合わせて笑っていた。

挨拶を終えると茅子が先に通用口を開けた。庇の下で空を見上げ、本降りになった雨を眺めていた。

「お待たせしました!」
トイレに行っていた翔太が出てきた。手に持った傘を開くと茅子に差し出した。

「ありがとう!」
茅子は笑顔で傘に入った。駐車場の端に止めた黒いミニバンまで来ると、茅子は先に助手席に座らされた。そして翔太が乗り込むと車のドアが閉まった。

「ねえ、今日ラブホにしよっ」
「もったいなくない?」
「私、出すから…ねっ」
車が駐車場を動き出すとふたりは小さく口を開いた。そのとき茅子の視界の隅に、傘を差した人影があった。茅子はまだ職場の駐車場だと思い出した。

「あれ、面会の人かな?」
「えっ、なに?」
「ううん、なんでもない」
そうだ、もう仕事は終わっていた…茅子はそう思い直した。車はすでに駐車場を出て幹線道路へ向かっていた。
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