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メダイユ国物語
第2章 ラバーン王国のプリンセス
 オズベリヒへ目を向けると、彼の手には短剣が握られていた。刃先に少量の血が付着している。

「全く、どちらが無礼者だ。身分を弁えるのはお前の方だ」

 床に横たわって苦しみ藻掻いている侍女に、オズベリヒは冷たい目を向けて言い捨てる。

「グレンナ――」

 マレーナが叫びながら彼女に駆け寄ろうとすると、オズベリヒは自分の従者たちに「おい」と目配せで指示を出す。ひとりの従者が「ご無礼」と言いながら、マレーナの両肩を力強い力で掴み、彼女の自由を奪った。

「グレンナッ! 急いで手当しないと……早く彼女を医務室に連れて行ってっ!」

 涙ながらにオズベリヒへ訴えかけるマレーナ。その背後では、ファニータとパウラ二人の侍女が、青ざめた顔で身を寄せ合い震えていた。

「無駄です。この女はもう助かりません」

 オズベリヒは懐からハンカチを取り出し、短剣の刃先に付いた血を拭いながら冷たい視線を王女に向ける。

「そんな……グレンナ……」

 マレーナはただ、横たわるグレンナを見つめることしか出来ずにいた。それと同時に、そんな無力な自分が悔しくて堪らなかった。

「ぐっ……かはっ……」

 苦しみに耐えるグレンナの、言葉にならない苦悶の声が室内に響く。

「おい」

 オズベリヒは別の従者に声を掛け、

「とどめを刺してやれ」

 と命じた。

「やめてっ! これ以上はもうやめてぇっ!」

 マレーナが必死に訴える。王女であるという立場は、すでに彼女の頭には無かった。泣き叫ぶその声はごく普通の、年相応の少女そのものだった。

「おやおや、姫君はなんと残酷なお方だ。このまま息絶えるまで彼女を苦しませたいとは」

 オズベリヒは薄笑いを浮かべ、芝居がかった大仰な態度で答える。王女の反応を楽しんでいるかのように。

「違う……違うっ!」

 マレーナは声を絞り出す。

「ふむ、ではこうしましょう。貴女にその役目をお譲りします。姫君が自ら彼女を楽にさせてあげてください」

 オズベリヒが目配せすると、従者は腰の鞘から長剣を引き抜いた。そして刃の部分を手に持ち替え、片膝を付いてマレーナに向けて柄を差し出した。

「そんな……」
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