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メダイユ国物語
第2章 ラバーン王国のプリンセス
 マレーナにも理解は出来ていた。今のグレンナを苦しみから開放させるには、楽にさせるには、すぐにでも死なせてあげるしかない。だが、使用人である前に親しい友人であり、姉のような存在でもある彼女を、自分の手で殺すことなどマレーナにはとても出来なかった。

 マレーナが差し出された剣を手に取れないことを察すると、

「では、この女のことはこちらに一任する。それで構いませんね?」

 オズベリヒは尋ねる。マレーナはただ無言で頷くほかなかった。

 彼女の意思を確認したオズベリヒは、剣を持つ従者に向かい「やれ」とひと言命じた。

 甲冑を身にまとった従者は、立ち上がって長剣を持ち直し、グレンナの元へ近づいた。うつ伏せで横たわる彼女の身体は、ヒクヒクと痙攣を起こしている。すでに息は無いようにも思えた。身体の痙攣は筋肉の反射作用によるものかも知れない。

 従者の男は無表情な顔で、片足をグレンナの腰に下ろして踏み付けた。彼女の身体を固定するためである。そして彼は両手で柄を握った剣の切っ先を、グレンナの背中の中央部分、左右の肩甲骨の間に置いた。彼がこれから何をするつもりなのか、マレーナにも予想が付いた。とても見ていられない、そう思った彼女は顔を両手で覆う。二人の侍女も固く目を瞑って顔を伏せた。

 屈強の従者の男は、両手に力を込めて剣を下に押し込む。剣の先が、給仕服の背中にめり込んだ。

「ぐっ……がっ……」

 グレンナの身体が仰け反る。顔は目が見開き、口からは女の声とは思えない呻きが溢れた。彼女はまだ絶命してはいなかった。

 布地を切り裂いた剣は背中の皮膚に到達し、すぐに背骨に当たる。手に抵抗を感じた男は、剣に体重を掛けた。剣が沈み込み、背骨を破壊する。

 ――メキメキッ、ゴキッ

 硬い物体が砕けるような異音が鳴った。剣先は脊髄とその周囲の神経組織を破断しながら、なおもグレンナの体内にめり込む。

「あっ……がっ……」

 彼女の口からは吐血と共に、声にならない断末魔が溢れ出る。同時に切り裂かれた喉の傷口からはヒューヒューと、弱まった呼吸でわずかに肺から送り出される空気の漏れる音がした。

「もうやめて……もうやめてぇ……」

 マレーナは両手で顔を覆いながら、祈るように呟いた。だが、今止めることなど出来ない。グレンナを余計に苦しませるだけである。
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