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メダイユ国物語
第2章 ラバーン王国のプリンセス
 マレーナは恐る恐るグレンナの亡骸(なきがら)を見る。薄いグレーの給仕服は彼女自身の血を吸い込み、どす黒く変色していた。そして前掛けや袖口、襟元のフリルなどの元々白かった部分は真っ赤に染まっていた。彼女の苦悶に歪んだ顔は、口、鼻、目、耳、全ての穴という穴から血が吹き出している。さらには涙、鼻水、唾液などのあらゆる体液が混ざり、目も当てられない様相を呈していた。充血しきった目は大きく見開かれ、光を失った瞳が虚空を見ている。

「グレンナ……」

 マレーナは嗚咽を漏らす。

「どうして……どうしてこんなことに……」

 彼女の結婚式について語り合っていたことが、まるで遠い昔のことのように思えた。

(わたしのせいだ。わたしがここへ来ると言わなければ……グレンナの言葉に従って安全な場所へ逃げていれば……)

 涙の止まらないマレーナは自分を責める。

「あ……ああ……」

 背後の二人の侍女も、グレンナの変わり果てた姿を目にしてしまった。

 まだ十二歳のパウラには、ショックが大きすぎた。自分も同じ目に遭わされると思い込んだ彼女は、震える声を上げ、その場に座り込み失禁してしまう。

「見てはだめ。パウラは……あなたは大丈夫だから」

 横のファニータがすかさず彼女を力強く抱き締める。パウラの小さな身体はガクガクと震えていた。


「さて……」

 言いながらオズベリヒはベッドからシーツを剥ぎ取り、グレンナの遺体に無造作に被せた。大量の血液を吸い込んだ着衣のせいもあり、すぐに白いシーツのあちこちに、赤い染みが浮かび上がった。

「使用人の血で汚(けが)されたこの部屋はもう使えませんな。姫君には自室へ移ってもらいましょうか」

 茫然とシーツの赤い染みを見つめるマレーナに向かい、

「しばらくは不自由な思いをしてもらうことになりますが」

 彼は後ろ手を組みながら、王女に近づいて言った。

「――侍女は、この二人はどうするつもりです」

 服の袖で涙を拭い、マレーナは重い口を開いた。

「お好きになさればいい」

 オズベリヒは彼女の背後で抱き合う二人の侍女を一瞥して答えた。

「では、わたしに同行させます」

「いいでしょう……ただし」

 オズベリヒは従者に目配せすると、

「念のため、ボディーチェックはさせていただきます」

 再び王女に目を向けた。
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