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メダイユ国物語
第2章 ラバーン王国のプリンセス
 背骨が破壊されたことにより、剣に抵抗を感じなくなった。男は腕の力のみで、さらに剣を押し込む。剣先が心臓とその両脇の肺に届き、そしてわずかに動き続けていたそれらを貫いた。いや、十分に熟し、柔らかくなった果実を棍棒で力任せに殴りつけるように、人間の生命活動においてもっとも重要な臓器を押し潰したのだ。

 ――ドクンッ

 外部からの圧力で強引に押し潰された心臓は、最後の鼓動を響かせてからその働きを止めた。グレンナの顔が、ガクンと力なく床に伏せた。

 剣先は勢いのまま肋骨の中央部に到達し、再び男の手に抵抗感が伝わる。彼は手にした剣の柄を小刻みに捻りながら力を加えた。バキバキと音を立てつつ、剣先が肋骨を抉るように破壊し、やがて胸部の皮膚を突き破って切っ先が顔を覗かせる。そしてそれは、押しつぶされた脂肪の塊、豊かな両乳房の中央部を切り裂きながら給仕服の前身頃を破り、ついには床の絨毯に到達した。長剣の刃が、グレンナの身体を完全に貫通していた。

 絨毯の彼女の周囲は広範囲にわたり、流れ出た血液で真っ赤に染まっていた。人間ひとりの身体に、いか程の量の血液が流れているのかを、あらためて思い知らされる壮絶な光景だった。

 静寂が訪れた。室内には鉄さびのような血の匂いが漂っている。

 全てが終わった。マレーナは顔を覆った手を下ろし、グレンナに目を向けた。

 彼女は顔を床に突っ伏している。彼女の命の火は、完全に消えていた。

 腕と脚が微かにヒクヒクと痙攣している。まだ機能を止めていない脳が、未だ四肢の末端神経に、わずかな電気信号を送っていた。

 だがグレンナの身体はすでに心臓が機能していない。全身に血液を送るポンプの役割を担う臓器はすでに潰されており、体内に残された僅かな血液は、もう脳に送り届けられることはなかった。その働きに必要な、最低限の血液の供給が絶たれた脳は、やがて機能を完全に停止し、手足の痙攣もようやく収まった。 

「終わったようだな。死んだか?」

 静まり返った部屋に、オズベリヒの声が響く。

 従者はグレンナの身体から剣を引き抜くと、彼女の肩を手で掴み、その身体を仰向けにした。彼女はぐったりと、微動だにしない。従者はオズベリヒに顔を向け、問いに対する答えとして無言で頷いた。
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