この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
メダイユ国物語
第3章 幕間 その一
彼は無事に城から脱出したらしい――マレーナは安堵した。だが、オズベリヒはそんな彼女に
「脱走者は、我々の手の者が行方を追っています。いずれ捕らえることが出来るでしょう」
と、非情な言葉を掛ける。
「喜んでください、そのうち婚約者にも会わせて差し上げます――おい」
彼はそう続けると、従者に目配せした。
「こちらへ」
従者はマレーナに手を貸して立たせると、扉を開いて彼女を通した。
(お母様とウェンツェルにまた会える)
絶望の中にいたマレーナに、僅かばかりの希望が見えた。
出来ることなら、ウェンツェルには逃げ果せて欲しい。だが、彼にまた会いたいという想いも、今のマレーナの正直な気持ちだった。
もう少しだけ耐えよう。再び母親と婚約者に会えるその日まで。
彼女は決意を新たにした。
オズベリヒの従者に先導され、マレーナは塔の自室に戻った。
室内では、先に戻った侍女パウラがひとりで掃除をしていた。
「マレーナ様、お帰りなさいませ」
パウラは手を止めて王女を出迎えた。
「あら? ファニータは?」
室内を見回すが、彼女の姿はなかった。
「ファニータ様はここへ戻る途中で、兵隊の方に呼ばれてました」
「兵隊? オズベリヒの部下の?」
「はい、何かお手伝いが必要だとかで」
兵士が侍女に何を手伝わせようと言うのだろう――マレーナは訝しむ。
「ファニータはあなたに何か言ってましたか?」
「すぐに戻るから先に戻ってなさい、と……」
パウラの表情に不安の色が浮かんだ。
「……分かりました。彼女がそう言うのであれば、そのうち戻って来るでしょう」
マレーナは笑みを浮かべて答えた。パウラを心配させないためであったのだが、その実マレーナ自身も不安に駆られていた。
そして彼女の不安は的中する。
その日、ファニータはマレーナたちの元に戻ることはなかった。
「脱走者は、我々の手の者が行方を追っています。いずれ捕らえることが出来るでしょう」
と、非情な言葉を掛ける。
「喜んでください、そのうち婚約者にも会わせて差し上げます――おい」
彼はそう続けると、従者に目配せした。
「こちらへ」
従者はマレーナに手を貸して立たせると、扉を開いて彼女を通した。
(お母様とウェンツェルにまた会える)
絶望の中にいたマレーナに、僅かばかりの希望が見えた。
出来ることなら、ウェンツェルには逃げ果せて欲しい。だが、彼にまた会いたいという想いも、今のマレーナの正直な気持ちだった。
もう少しだけ耐えよう。再び母親と婚約者に会えるその日まで。
彼女は決意を新たにした。
オズベリヒの従者に先導され、マレーナは塔の自室に戻った。
室内では、先に戻った侍女パウラがひとりで掃除をしていた。
「マレーナ様、お帰りなさいませ」
パウラは手を止めて王女を出迎えた。
「あら? ファニータは?」
室内を見回すが、彼女の姿はなかった。
「ファニータ様はここへ戻る途中で、兵隊の方に呼ばれてました」
「兵隊? オズベリヒの部下の?」
「はい、何かお手伝いが必要だとかで」
兵士が侍女に何を手伝わせようと言うのだろう――マレーナは訝しむ。
「ファニータはあなたに何か言ってましたか?」
「すぐに戻るから先に戻ってなさい、と……」
パウラの表情に不安の色が浮かんだ。
「……分かりました。彼女がそう言うのであれば、そのうち戻って来るでしょう」
マレーナは笑みを浮かべて答えた。パウラを心配させないためであったのだが、その実マレーナ自身も不安に駆られていた。
そして彼女の不安は的中する。
その日、ファニータはマレーナたちの元に戻ることはなかった。