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メダイユ国物語
第3章 幕間 その一
 彼は無事に城から脱出したらしい――マレーナは安堵した。だが、オズベリヒはそんな彼女に

「脱走者は、我々の手の者が行方を追っています。いずれ捕らえることが出来るでしょう」

 と、非情な言葉を掛ける。

「喜んでください、そのうち婚約者にも会わせて差し上げます――おい」

 彼はそう続けると、従者に目配せした。

「こちらへ」

 従者はマレーナに手を貸して立たせると、扉を開いて彼女を通した。

(お母様とウェンツェルにまた会える)

 絶望の中にいたマレーナに、僅かばかりの希望が見えた。

 出来ることなら、ウェンツェルには逃げ果せて欲しい。だが、彼にまた会いたいという想いも、今のマレーナの正直な気持ちだった。

 もう少しだけ耐えよう。再び母親と婚約者に会えるその日まで。

 彼女は決意を新たにした。


 オズベリヒの従者に先導され、マレーナは塔の自室に戻った。

 室内では、先に戻った侍女パウラがひとりで掃除をしていた。

「マレーナ様、お帰りなさいませ」

 パウラは手を止めて王女を出迎えた。

「あら? ファニータは?」

 室内を見回すが、彼女の姿はなかった。

「ファニータ様はここへ戻る途中で、兵隊の方に呼ばれてました」

「兵隊? オズベリヒの部下の?」

「はい、何かお手伝いが必要だとかで」

 兵士が侍女に何を手伝わせようと言うのだろう――マレーナは訝しむ。

「ファニータはあなたに何か言ってましたか?」

「すぐに戻るから先に戻ってなさい、と……」

 パウラの表情に不安の色が浮かんだ。

「……分かりました。彼女がそう言うのであれば、そのうち戻って来るでしょう」

 マレーナは笑みを浮かべて答えた。パウラを心配させないためであったのだが、その実マレーナ自身も不安に駆られていた。

 そして彼女の不安は的中する。

 その日、ファニータはマレーナたちの元に戻ることはなかった。
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