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それぞれの後編
第20章 サディスティック・マリッジ【あとがきのあと】
「あぁあぁああの……お風呂!お風呂沸かしてきます!」

「ふーん?風呂で使う?」

「ひぃっ!お断りします!」


逃げようともがく程、愛里咲はどんどん追い詰められていく。ついには、足が縺れて転んだ愛里咲の上に琉が覆い被さった。

愛里咲の顔の両脇に、肘を曲げて置かれた琉の両手。獲物を追い詰めたようなオスの悦に浸る顔にドキリとする。


だけど、この瞬間に言われるのは胸を抉る言葉。

”オモチャに拒否権はない”

何度も言われてきたその言葉が頭の中を支配して、愛里咲の涙腺を崩壊させる。


「何度も言わせんな」

この後、形のいい唇が告げるのは ”お前はオモチャだ” と思い知らされる残酷な言葉。

慌てて塞ごうとした愛里咲の両手が耳に届く前に、琉の唇がそれを告げた。


「愛里咲に拒否権はない」


”愛里咲” と。

「オモチャ……じゃ、ない……?」

そう。いつの頃からか、”オモチャ” ではなく、そこは” 愛里咲自身” を指す言葉がはめられていた。

(ああ、そうだ。結婚式の日に琉ちゃんから……)

それを皮切りに、結婚式での琉の告白が、愛里咲の頭の中でリピート再生される。

愛の深さを計る必要なんてない。疑うこともやめたんだ。

意地悪で、ちっとも素直じゃない。甘さの欠片もない琉が、真っ赤になって ”愛している” とそう告げてくれたのだから。


「……意味わかんねぇ」

琉の指が、愛里咲の涙を何度も拭う。優しいその指と同様に、琉の瞳も困ったように揺れている。


─────好き。その気持ちが溢れ出す。


そんな甘い言葉、琉が何度も言ってくれるわけないのはわかっているけれど。それでも愛里咲は聞かずには、そして伝えずにはいられなくなる。

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