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青空が目にしみる
第1章 青空が目にしみる
 海沿いの国道脇に、薄いブルーの四角い建物がある。元々はもっと濃い青に塗られていたのが潮風と日射しと年月によって褪せたようだ。入口の横にはチョークでOpenと殴り書きされた看板が立っている。

 おしゃれな外観にはほど遠い。しかしちょうどよい感じにくたびれている。
 
 Cafe SouthernWind《サザンウィンド》はそんな店だ。

 マスターも店と同じぐらいかそれ以上に味がある。後ろで束ねた白髪頭に陽に焼けた顔と削いだような頬。こなれた風合いのアロハシャツにブルージーンズ。客がいない時は店の前に置いたベンチに座り、前屈みでマルボロをくわえ、海を眺めている。

 若い頃は一人で世界じゅうを旅して回ったらしい。決して広いとは言えない店の中に、明らかに外国の風景とわかる数枚の写真が飾ってあり、興味を持ったわたしが聞いたら言葉少なにそう言った。

 海へのドライブの途中でこのカフェを見かけ、ふらっと立ち寄った。相棒はブルーのチンクエチェント。最近のモデルではなくて、リアエンジンの古いやつ。ここへ初めて来たとき、店の外で煙草を吸っていたマスターは、わたしの愛車をしばらくのあいだ眺めていた。何か言いたそうな雰囲気だっだが

「いらっしゃいませ」

 ボソッと言っただけだっだ。

 それ以来、ブレンドしかメニューがないこのカフェに、ドライブがてらに月に一度は訪れている。

 カウンターの隅には数冊の文庫本。ヘミングウェイばかりなのは誰の趣味なのか。その一冊を手に取り、この前の続きから読み始める。

 コーヒーを飲み、本のページをめくる。老人は小舟で海へ、巨大なかじきはまだ出てこない。この前も同じ文章を読んだ。気にせずにもう一度最初から読む。このペースではいつまで経ってもかじきと老人の死闘までたどり着かない。

 マスターが外へ出ていった。わたしの他に客はいない。時間だけが流れていく。

 今日も快晴だ。




  𝑭𝒊𝒏
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