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千一夜
第58章 第八夜 island 扉
「ところであなたたち」
そう言った後、聖子ママは私を見たまま何も言わない。静寂のせいで私は息苦しくなった。
「まぁいいわ。そういうことってあなたたちの個人的な問題ですもんね。今はそう言うプライベートを根掘り葉掘り訊く時代じゃなくなった。いい時代になったのか、それとも窮屈な時代になったのかなんてあと百年経たないとわからないわよね」
「……」
何となくだがわかった。聖子ママが私に言った“そういうこと”。
聖子ママは私にこう訊ねたかったのだ「あなたたち、寝た?」と。
そんなふうに訊ねられたら私はどう答えればいいのだろうか。
私と河田の間に体の繋がりはまだない。もちろんこれからどうなるのかはわからない。付き合うことになるかもしれないし、鎌倉のデートが最後になるのかもしれない。
悲観することはないと自分に言って聞かせる。相手は上場企業の役員なのだ。そして河田は若い。手の届かないエリートと鎌倉に行けただけで、私は満足しなければならない。要するにアドバンテージは河田が握っているということだ。
「一月後、河田さんはあなたに結婚を申し込むと思うわ」
「えっ?」
「伊達に長生きしてたわけじゃないのよ。その間たっぷり人間を見て来たわ。私と主人は大昔銭湯をやっていたの。お風呂に入るには人はみんな裸になるでしょ? 肩書やお金はお風呂の中には持ち込めない。その人間の本当の姿が銭湯で見ることが出来る。風呂の入り方で人間の本質がわかるわ」
「……」
生まれたときと同じ姿ということか。
「河田さん、食事にはうるさい人だと思うの。しっかり勉強してよね」
「はい」
私は「はい」と答えるしかなかった。
「私もね、料理には自信があるのよ。でもね、私の主人はいつもこう言ってたわ『お袋の味と違う』ってね。冗談じゃないわよね。私の作った料理を母親の料理と比べるなんて許せないでしょ。だから私はいつも台所で主人を『マザコン野郎』って罵ってたわ。ふふふ」
「マザコン野郎……」
「そういうことを河田さんに言われても気にしないことよ。わかった?」
「はい」
そう返事はしたが、河田と結婚する予定は本当にない。
ところが、聖子ママの予想は見事に当たった。
一月後、河田と一夜を過ごすことになった日に、私は河田から結婚を申し込まれた。
「僕と結婚して欲しい」
「……」
私は黙ってうなずいた。
そう言った後、聖子ママは私を見たまま何も言わない。静寂のせいで私は息苦しくなった。
「まぁいいわ。そういうことってあなたたちの個人的な問題ですもんね。今はそう言うプライベートを根掘り葉掘り訊く時代じゃなくなった。いい時代になったのか、それとも窮屈な時代になったのかなんてあと百年経たないとわからないわよね」
「……」
何となくだがわかった。聖子ママが私に言った“そういうこと”。
聖子ママは私にこう訊ねたかったのだ「あなたたち、寝た?」と。
そんなふうに訊ねられたら私はどう答えればいいのだろうか。
私と河田の間に体の繋がりはまだない。もちろんこれからどうなるのかはわからない。付き合うことになるかもしれないし、鎌倉のデートが最後になるのかもしれない。
悲観することはないと自分に言って聞かせる。相手は上場企業の役員なのだ。そして河田は若い。手の届かないエリートと鎌倉に行けただけで、私は満足しなければならない。要するにアドバンテージは河田が握っているということだ。
「一月後、河田さんはあなたに結婚を申し込むと思うわ」
「えっ?」
「伊達に長生きしてたわけじゃないのよ。その間たっぷり人間を見て来たわ。私と主人は大昔銭湯をやっていたの。お風呂に入るには人はみんな裸になるでしょ? 肩書やお金はお風呂の中には持ち込めない。その人間の本当の姿が銭湯で見ることが出来る。風呂の入り方で人間の本質がわかるわ」
「……」
生まれたときと同じ姿ということか。
「河田さん、食事にはうるさい人だと思うの。しっかり勉強してよね」
「はい」
私は「はい」と答えるしかなかった。
「私もね、料理には自信があるのよ。でもね、私の主人はいつもこう言ってたわ『お袋の味と違う』ってね。冗談じゃないわよね。私の作った料理を母親の料理と比べるなんて許せないでしょ。だから私はいつも台所で主人を『マザコン野郎』って罵ってたわ。ふふふ」
「マザコン野郎……」
「そういうことを河田さんに言われても気にしないことよ。わかった?」
「はい」
そう返事はしたが、河田と結婚する予定は本当にない。
ところが、聖子ママの予想は見事に当たった。
一月後、河田と一夜を過ごすことになった日に、私は河田から結婚を申し込まれた。
「僕と結婚して欲しい」
「……」
私は黙ってうなずいた。

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