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君とメメント・モリ
第18章 死神の秘密
翼は再びカラスの体を得た。空を飛び、戻らなければならないのに、体が浮き上がらない。ふと見やると、右の翼がもぎ取られ、体半分を地面に引きずるように傾いてしまっていた。
二人の生きたいという強い思いが、翼の体を引き裂いたのだった。

羽を失ってしまったものの、翼は死神の使命をなんとか達成することができたので、正式に死神としての称号を与えられた。もう、さまようだけの魂ではなくなったのだ。

それでも、あの苛烈で壮絶な肉体の苦しみに耐えながら、それでも体を離れなかった二人の生への執念に、翼は圧倒され、うちのめされ、しばらくのあいだ立ち直ることができなかった。


その男と女の顔は、今もよく覚えていた。

凛にプロポーズした朝、「事故で亡くなった両親だ」といって凛が見せた写真。フォトフレームに収まって幸せそうに微笑んでいたのは、まさに翼が初めて死に送り出した男女だった。
彼らは、凛の両親だったのだ。

この事実に彼女はきっと絶望する。自分が両親に憑いた死神だと知ったら、どんなに裏切られた気持ちになるだろうか。
激しい孤独感に自分を追いやり、誰も信じることができなくなるだろう。そうなれば凛は、確実に幸せから遠ざかってしまう。運命を恨み、希望を失って生きる凛の姿を思うと、翼は胸を引きちぎられそうな思いだった。

いっそのこと、今のうちに彼女のもとから姿を消すべきなのかもしれない。

翼はなかなか部屋に戻れず、河原に降りた。河原の岩のそばに、人影を捕らえた。岸辺亘だった。

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