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きのうの夜は
第7章 想い

「じゃ、今度俺が関西のすき焼きを作ってやるよ…」

そう言われたので私は次の週末にすき焼きの材料を買っておいた。
吉村は我が家にやって来ると満面の笑みを浮かべてこういった。

「本場、関西のすき焼きを作ってやるからな…」

そう言うと手早く熱くなったすき焼き鍋に牛脂をひいてゆく。
そこに牛肉を入れて焼いていった。

焼いた牛肉のところに大量の砂糖を入れた。
私はこの光景を見た時非常に驚いたのだ。

関東では割り下を入れてお野菜や牛肉を煮ていくが、関西は牛肉を焼いてから割り下など使わずに野菜の水分だけで煮てゆくらしい。

「ほら、最初の一番旨い牛肉だ、食べてみろよ…」

そう言われて私はその牛肉を食べてみた。
その味は、関東の煮込んだ肉とは違っていて本当に甘くて美味しかったのだ。

「うん、美味しいわ…」
「関西では、関東のすき焼きは“すき鍋”って言うんだぜ…」

「そうなのね…知らなかった…」
「旨いだろう?」

「ええ、美味しいわ…」

後にも先にも、吉村が私に何か食事を作ってくれたのはこの時1度切りだったと思う。
このすき焼きは今でも私の中で強く心に残っている。

この頃になると、週末だけではなくて毎週水曜日になると私は仕事帰りに買い物をして吉村のマンションに行き、夕飯を作っていた。

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