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無垢な姫は二度、花びらを散らす~虫愛ずる姫君の物語り~
第6章 伍の巻
 そろそろ夜明けも近いけれど、まだ周囲には人っ子一人見当たらない。ひっそりと静まり返った大路の向こうに紅い丹塗りの巨大な門が聳え立っているのが余計に不気味で、圧迫感を与える。
 道の端に老婆が蹲っているのが見え、公子はホッとした。人恋しさのあまり、老婆に近付いてゆく。間近で見ると、枯れ木が襤褸を纏ったようで、白髪はそそけ立ち、それこそ幽鬼のように怖ろしげに見える。それでも、我が身一人でないと思えば、人ひとり見えないこの場所では心強い。
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