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ネコの運ぶ夢
第9章 お仕事ネコ
☆☆☆
約束の日、当日。
音子は俺が出勤準備をするのに合わせて服を着替え、髪をとかしている。鼻歌混じりに上機嫌で準備をしているところを見ると、一緒に家を出られるのが相当嬉しいらしい。
その姿は正直微笑ましく、可愛らしいのだが、極力見ないようにする。

俺はいつものワイシャツ、パンツ姿だ。
一方、音子は薄いブルーのワンピースに白いつば広帽、それに、この間購入したネコの絵をあしらった日傘という出で立ちだ。正直、夏っぽく、爽やかでかわいい。目の毒だ。

家を出ると、すかさず腕を組んできたので、とりあえず引き離す。

「えーなんでですか!」と不服な声を上げるが、そんな姿で出勤して、万が一職場の同僚などに見られた日には永遠の慰み物になりかねない。

「市ノ瀬さんのお仕事場って、どんな感じですか?」
「市ノ瀬さんって、どんなお仕事なんですか?」
「お昼はどうするんですか?」
「お休み時間はあるんですか?」

などなど・・・駅に向かう道すがら、音子は興奮冷めやらぬのか、ずーっと喋っていた。
それに対して、俺は、「まあ普通の職場だ」「イベント企画したり、実行したり」「食堂だ」「ある」と当たり障りなく答えていく。

こいつ、ものすごいウキウキしている。
あまりのテンションの高さに、若干俺は辟易した。

駅に到着し、電車に乗り込む。最寄り駅から会社までは地下鉄に乗っていく。この時間、いつも結構混んでいる。音子はどうやら満員電車というものに乗り慣れていないらしく、乗り込むときにまんまと人波に押し流され、あっという間にはぐれてしまう。
一体どこに行った!?

「いーちーのーせーさーん!たーすーけーてー!!!」

困ったのもつかの間だった。電車が動き出すと、遠くの方でぴこぴこと手を振り、助けを求める声がする。音子だ。やめろ、ものすごく恥ずかしい。なんだ!?お前。
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