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ネコの運ぶ夢
第15章 ネコの運ぶ夢
市ノ瀬さん、と音子が改めて俺に向き直る。
「私は自由になりました。だから、改めて・・・一緒に、いたいんです。いいですか?」

もちろんだ。

「音子・・・って呼んでいいのか?」
俺は尋ねる。今更、静香さんとは言いにくい。

へへ、っと音子は笑う。
「実は死後離婚の手続きのついでに、改名も申請しちゃいました。私は今や名実ともに『美鈴音子』です!」
音子は元気に頷く。

そうだな、やっぱりお前には『音子』が一番似合っている。

それなら、だ。

「音子、疲れてるかもしれないけど、少し付き合って欲しい」
「え?どこですか?お散歩ですか?」
「役所だ」
音子の頭に疑問符が飛び交う。よしよし、たまにはこういうのもいいだろう。

「知らねえのか?婚姻届って、24時間提出できるんだぜ」
音子の顔が弾けるように明るくなる。いつも俺が驚かされてばっかりだからな。こっちから仕掛けてみたかった。どうだ!?

「じゃあ、じゃあ!!」
ぐいっとテーブルに手をついて身を乗り出す。
「ああ、もう、あんな思いはしたくないからな。絶対に、離さないからな」
おっさんだけど、未来ないけど。
後のことはこの先、考えよう。こちとら老い先短えんだ、二度とこの夢を手離したくない。

「いやったー!!!」
音子がジャンプする。身体中で喜びを爆発させる。

「おい、こら、大声出すな。跳ねるな!真夜中だぞ」
「これが!これが、喜ばずにいられようか!」
うふふふふ、と音子は不敵な笑みを浮かべる。
「な、なんだよ・・・」
「じゃあ、じゃあ!今夜は初夜ですね!ふふふ・・・寝かせませんよ〜」

ぶっ・・・ゲホゲホ。唐突にあらぬ角度からの攻撃を受け、俺は顔を真っ赤にして咳き込んでしまう。

「あ、ついでに言いますけど、私、処女ですからね!優しくしてくださいね!」

ゲッホン、ゲッホン!なんということを言うんだ、こいつは。俺のほうが照れる。

「そうと決まれば、早くいきましょう!音子は市ノ瀬さんと早く初夜したいです!」
音子が俺の手をグイグイ引っ張る。おい!待て、こら!

やっぱり音子には、敵わない。

俺たちは揃って真夜中の街に飛び出した。

ああ、また、始まるんだ。俺と音子の騒がしい、あの愛おしい日々が。

今日このときから、終わらない夢の続きだ。

【ネコの運ぶ夢 完】
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