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トライ アゲイン
第7章 安祐美の父

安祐美は交通事故で昏睡状態を続けている。
安祐美の心は別次元のパラレルワールドで別の人生を歩み始めているのだった。

そんなことになっているとは
医師さえも理解できていない。
脳波もバイタルも安定しているので
そのうち目を覚ますでしょうと気休めの言葉しか返ってこない。

このまま植物人間なのか?
父親の太郎は気が気ではなく
仕事にも集中できずにいたものだから
些細なミスを連続してしまう。

今日も部長に呼び出されて雷を落とされたようで
周りから見ても気の毒なほど憔悴していた。
そんな太郎を同期の水島弘子が誰よりも心配していた。

叱られて悄気返る太郎を見かねて
「どう?今夜、一杯付き合わない?」と声をかけてきた。

「いや、そんな気分じゃないんだ」

乗り気ではない返答をした太郎に
「そんな気分じゃないからこそ誘ってんのよ」と
強引に太郎を飲みに連れ出した。


「へえ~…こんな洒落た店を知っていたんだね」

店内に流れるジャズの音量が
大きくもなく小さくもなく会話を邪魔しない。
飲みに行こうと誘われて気乗りしなかった太郎も
店の雰囲気に次第に心が癒されてゆく。

「良かったわ。気に入ってくれて…」

かなり強めのカクテルを
まるで栄養ドリンクでも飲み干すように
水島弘子はグイッと飲み干す。

「あんたがバリバリに頑張ってくれないと
こちらとしても張り合いがないのよ
営業一課と二課、所属場所は違えども
入社以来、ずっとあんたをライバル視してた私の事も意識してよね」

同期入社で、どちらも営業部に配属され、
甲乙つけがたい成績をあげて
これまた同時に太郎は営業一課、水島弘子は営業二課の課長に昇進した。

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