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彼女はボクに発情しない
第10章 恋する乙女のための小夜曲
☆☆☆
正気を取り戻して、やっと違和感に気づいた。

「なんで?陽太・・・」
まだうまく喋れない。陽太はまだ私のことをしっかり抱きかかえるように捕まえている。なので、その顔は見えない。どんな表情なのかもわからない。

「デート・・・してたんじゃ?」
そう、あなた、デートしてたんでしょ?
私が正気に戻ったのがわかったのか、やっと陽太の手が緩む。それでも、イッた余韻でまだ十分身体に力が入らないので、そのまま座り込んでしまった。

陽太の顔を見上げる。陽太はいつもと同じように安堵の表情を浮かべていた。

いつもの陽太だった。

「まだ花火大会終わっていないのに・・・」
なんでここにいるの?しかも私、今、SOS出来なかったのに・・・。
陽太がしゃがみこんで、「大丈夫か」と私に手を差し伸べてくれる。

なんだか目の前に起こっていることがあまりにも都合が良すぎて信じられない。
夢なのかと思うほどだ。

呼んでいないのに。
ここにいるはずがないのに。

「なんで・・・?」
また聞いてしまった。どうしてもこれが現実だとは思えないのだ。

そんな私の思いとは裏腹に、陽太はぽかんとした顔をして、こともなげに言った。

「え?なんでって・・・奏が大事だから」

『奏が大事』って・・・なんで?なんでよ・・・。

胸がいっぱいになった。
助けに来てくれないかと思ったのに、来てくれただけでも嬉しかったのに、「大事」なんて言われたら、ますます好きになっちゃうよ・・・。

私、迷惑ばっかりかけているよね。
それに、嫉妬しちゃって、嫌な女で。今日だって、大人しくしていればいいものを、のこのこ外に出てきて、まんまと発情しちゃって。

私なんかにそんな大事なセリフ言わないでよ・・・。もっと、あなたにふさわしくて、優しくて、普通で、可愛くて、迷惑かけなくて、安心して付き合えて・・・そういう人に言いなよ・・・。

私なんかに、いわ・・・ないでよ・・・。

涙がこぼれそうになって、慌てて下を向く。
「どうしたの?奏。どっか痛む?」
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