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彼女はボクに発情しない
第8章 北風と太陽による諧謔曲
数学でわからないところがある、と言うと、丁寧に教科書に沿って教えてくれた。かなり分かりやすい。この極めて教え方の上手い専属家庭教師が毎試験つきっきりで教えてくれてるのか・・・。

陽兄が自分のレベルに全く合っていないだろう高校に行って、なんとかなっている理由を垣間見た気がする。

「奏お姉ちゃんの教え方すっごい分かりやすい」
「あら、そう?」
お姉ちゃんは照れたように笑った。
「陽兄が独り占めしているなんてずるいなー・・・」
本当に、陽兄が羨ましい。私も教えて欲しい。
「そ、そうかな・・・。」
陽兄の名前を出した途端に、お姉ちゃんの表情が曇った。やっぱり何かあったのかな?

私は自分で言うのも何だが、竹を割ったような性格というか、とにかくまどろっこしいことがあまり好きではない。陽兄には、『竹を割ったような、と言うか、割った竹を粉砕するタイプ』と訳の分からない言われようをして喧嘩したこともある。・・・まあ、ごくたまにやりすぎるから?かもしれないが・・・。

なので、どストレートに聞いてみた。

「奏お姉ちゃん・・・、陽兄と喧嘩した?」
「え?・・・や・・・あの・・・それ・・・」
わかりやすくうろたえる。
「やっぱり、陽兄が何か悪いことしたのね!?私がぶっ飛ばしてくるからね!安心して!」
腕まくりして立ち上がろうとした私を、奏お姉ちゃんが慌てて止める。
「ち、違うの・・・陽太は悪くない・・・の」
奏お姉ちゃんは正座したまま、ボソボソ言う。やや右下をむいて顔を上げてもくれない。
お姉ちゃんの様子もおかしい・・・。

「え?だって・・・陽が家でものすごく狂ってて・・・あれはきっと、いつものバカトンチキなことをしでかして、奏お姉ちゃんを悲しませたに違いないと・・・」
思ったんだけど・・・違うの?
私は取り合えず、もう一度座りなおす。

「狂って・・・って?陽太が?」
奏お姉ちゃんがやっと顔を上げてくれる。
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