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彼女はボクに発情しない
第10章 恋する乙女のための小夜曲
☆☆☆
今日は、陽太と笹本さんがデートをすると言っていた日だった。午前中、陽太が家から出ていくのが窓から見えた。

行っちゃったんだ。

陽太は意外と真面目だ。約束したことは必ず守る。
だから、行ったんだ。それだけだ。
賭けをして、負けて、ルールだったから。ちゃんと約束したから。だからだ・・・。

ギュッと枕を抱きしめながら私は何度も言い聞かせる。
大したことではない。明日になれば、また、陽太と私は同じように笑いあえるはず。
そう・・・そうに違いない。

でも、そうじゃないなんて一つも根拠がないのに、なんでだろう、胸が痛くてしょうがない。
苦しくて、しょうがない。

ややもすると陽太と笹本さんが楽しげに歩いているところを想像してしまう。そうするたびに慌てて頭を振ってイメージを振り払おうとする。
だけど、しばらくするとまた思い浮かべてしまうのだ。

そうこうしているうちに何も出来ないまま時間だけが過ぎ去り、あっという間に午後になってしまった。

ああ・・・習い事の時間だ。

今日は、私が唯一小学生から続けているピアノのレッスンがある。
そろそろ家を出なければ間に合わない。

だけど・・・。

私は逡巡していた。なぜなら、陽太はこの時間、すでに電車で何駅か離れた花火大会会場にいるはずだからだ。そんなとき、『発情』してしまったらと思うと、恐ろしい。

もちろん、私だってそうそう毎日のように『発情』するわけじゃない。
でも、それでも、日々の生活がある程度安心して送れるのは、陽太がいてこそだ。

ここでもまた、私は自分がいかに陽太に依存していたのかを思い知らされる。

今日は、レッスンを休もう。
と、そこまで考えて、はたと思い至った。
親に、なんて言えばいいのだろう。
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