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愛しのバニー~Bad Romance~
第1章 うさぎ
センスのいいスーツの着こなしは、
愛妻の見立てだと評判だ。

喜田の妻は同じ美丘市役所の元職員で、
結婚と同時に退職したにもかかわらず、
その美しさは伝説のように今も役所内で語り継がれている。

実直で物静かな喜田は、
他人が嫌がる仕事も引き受け、
コツコツとまじめにこの職場で信頼を勝ち取り、
実績を積み上げてきた。

結果、多くの人々の後押しと市長のひっぱりで、
役所のトップスリーと言われるこの座を手に入れた。

が、喜田にはおごりはひとつもない。

むしろ自分を推してくれた職員たちへの感謝と、
期待を裏切れないプレッシャーを抱えながら
職務に臨んでいる。



今日は、
美丘市の十名ほどの教職員たちが、
教育省優秀職員表彰を受け、表敬訪問に訪れている。

来賓室の奥には、
プレス対応用に屏風が設置され、
その手前に紺色のスーツに身を固めた教員たちが
緊張の面持ちで整列していた。

還暦がらみのベテランから
若手までが顔をそろえている。

ローカル放送局、地元紙などの
見知った顔の地元メディアの記者たちが十人ほど、
カメラを持って待機していた。

教育委員会事務局の司会者が
次第に沿って進行し、
教員たちがひとりずつ名前を呼ばれ、
順に喜田の前に歩み出る。

喜田はいつものように柔和な笑みで
一人一人と簡単なあいさつを交わし、
事務局が準備した記念品を授与していった。

「羽生月子さん」

最後に呼ばれた教員が、こちらに歩み出た。


喜田は息を呑み、動きを止めた。


初めて聞く名前だった。

しかしその顔は見覚えがあるどころか、
毎夜胸の内で密かに思い出している特別な顔だった。


───うさぎ、なぜこんなところに?
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