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東京帝大生御下宿「西片向陽館」秘話~女中たちの献身ご奉仕
第3章 女中 千勢(ちせ)

夕餉の後、誠一は、 「そのお茶だけ残しておいてもらって、今夜はもうこれでいいから、明日からの授業の準備をしなさい。」 と言って、千勢を女中部屋に戻した。寝床に入った誠一は、千勢が部屋を出る前に深々とお辞儀をして、 「お当番中は、たくさんのご配慮をいただき、有難う存じました。」 と言った時の神妙な口調を思い出しながら、先週の良枝に続いて、この一週間で千勢とも、自然な振舞いの中でお互いに気持ちを通わせることが出来たように思った。そして、「西片向陽館」での新しい生活に、安心と充実を覚えながら、寝床でドストエフスキーの原書を開くのだった。
(第1話 了)

