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ユイとルイ
第2章 結衣子
結局旅行は結衣子とふたりで行きました。実はそのころ、妻は不倫をしていました。仕事上のトラブルは事実でしたが、私たちが沖縄にいる間、妻はずっと男と一緒に過ごしていました。結衣子は母親に新しい男ができたことを、薄々勘付いていました。

「お母さん、彼氏がいるみたい…」
沖縄に向かう飛行機の中で結衣子が唐突に口を開きました。

「…うん」
「お父さんも知ってた?」
私は曖昧に小さく頷き結衣子の頭を撫でました。出会って5年、親子になって3年のあいだ、私は何度結衣子の頭を撫でたでしょう。嬉しいときや悲しいとき、いつも結衣子は私に頭を撫でてと寄って来ました。そのときも飛行機の隣の席から、頭を私の肩に乗せていました。

「ほら、富士山!」
小さな飛行機の窓から、雪に覆われた富士山の山頂が見えました。私が声を掛けると、窓際に座る結衣子はチラッと視線を外に向けました。

「富士山なんていつも見てるよ!」
少しだけ唇を尖らせながら、結衣子はシートに深く座り直した。その横顔はいつの間にか大人びて、母親とそっくりでした。

「ユイちゃん…化粧してる?」
「うん…お父さん、やっと気づいた?」
不満げだった表情が一瞬で笑顔に変わり、結衣子が私に向き直りました。ちょっとだけアイラインを入れ唇にグロスを塗って背伸びをしていましたが、結衣子の笑顔は小学4年生のころのままでした。その笑顔に結衣子と過ごした楽しかった出来事を思い出し、妻のことを忘れていました。
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