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夜をほどく
第6章 やさしい嘘、ほどけない朝
朝の光は、残酷なくらい静かだった。

淡いカーテン越しに差し込む陽が、部屋の輪郭をやわらかく照らす。
隣にあるぬくもりが、まだ醒めぬ夢のようで――紗江は、息を潜めて目を開けた。

光貴は背中を向けて眠っていた。
シャツも羽織らず、無防備な肩と首筋が、すこし呼吸に合わせて上下している。

昨夜、どれほど名前を呼ばれたか。
どれほど彼を欲しがったか。
その全てが、現実だったと思うには、まだ朝はまぶしすぎた。

「……起きてるのか」

背を向けたまま、彼が低く言った。

「……はい」

返事が喉にひっかかる。
それでも、彼は振り返らずに言った。

「君のこと、傷つけたな」

「いいえ……傷ついてなんか……ないです」

それは本当だった。
ひとつになった夜、悲しみや罪悪感よりも先に、生きている実感があった。
触れられた肌の奥で、女としての自分が目を覚ましたようだった。

「じゃあ、なんで泣いてるんだ」

頬をなぞった彼の指に、熱い雫が触れていた。
気づけば、自分でもわからないまま、涙が落ちていた。

「……わからない。……どうして、こんなに欲しかったのか……」

「俺だって、こんなはずじゃなかった」

抱きしめる腕が、昨夜よりも強かった。
だけどそれは、熱でも情欲でもなく、壊れそうな何かを守るような抱擁だった。

「帰りたくない」

「……でも、帰らなきゃいけない」

ふたりとも、答えは知っていた。
この朝のぬくもりが、永遠には続かないことを。

けれど、彼の胸に顔をうずめたまま、紗江は小さく囁いた。

「ねぇ……また、嘘をついてください。優しいやつ……」

彼の手が髪を撫でた。

「わかった。……全部、夢だったことにしよう」

それはあまりにやさしい嘘だった。

けれど、ほどけない。
身体が知ってしまった温度は、もう戻れなかった。
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