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夜をほどく
第7章 触れずにはいられない

「おはようございます」
何気ない挨拶。
他の社員と同じように、部長室のドアをノックし、紗江は入った。
光貴は、デスクに目を落としたまま、わずかにうなずいただけだった。
その沈黙すら、数日前までは“いつもの彼”だったはずなのに――今は、熱を含んだ傷のように、胸を締めつける。
ふたりだけが知っている夜が、ただの記憶になりはじめていた。
けれど、それは冷めるのではなく、かえって火種のように、じわじわと彼女を焦がしていた。
「この資料……本当に、これで?」
彼の声がいつもより低く、わずかにかすれていた。
背後に立つ紗江の指先が、紙から離れない。
「……じゃあ、直してきます」
目が合う。
瞬間、空気が止まった。
言葉も息遣いも、なにもかもが、あの夜の続きを求めていた。
「……待て」
彼が席を立ち、彼女の腕をつかんだ。
「部長……」
「やめろ。名前で呼べ」
その言い方が、ひどくわがままで、そして懇願のように響いた。
「……光貴さん……」
たった一言で、彼の瞳が濡れた。
ふたりの間にあった机が、もはや無意味な壁になった。
彼の指が、頬を、顎を、唇をなぞる。
触れてはならない場所なのに、触れずにはいられない。
「やっぱり、おかしくなる……君に会うと……」
彼の囁きは、頬にかかる吐息とともに、熱を孕んでいた。
「私も……もう、戻れない……」
次の瞬間、壁際に追い込まれた。
見慣れた部長室の中、外には誰もいない――けれど、声は殺した。
「誰か来たら……」
「来てもいい。止められないから」
彼のキスは、前よりもずっと深く、乱暴で、愛おしい。
スカートの裾に指がかかり、頬が熱を帯びる。
「もう、何度も夢に見た……君を、こうして……」
その熱が、職場という緊張感すらも燃やし尽くしていく。
ふたりはもう、抗えない場所へと足を踏み入れていた。
何気ない挨拶。
他の社員と同じように、部長室のドアをノックし、紗江は入った。
光貴は、デスクに目を落としたまま、わずかにうなずいただけだった。
その沈黙すら、数日前までは“いつもの彼”だったはずなのに――今は、熱を含んだ傷のように、胸を締めつける。
ふたりだけが知っている夜が、ただの記憶になりはじめていた。
けれど、それは冷めるのではなく、かえって火種のように、じわじわと彼女を焦がしていた。
「この資料……本当に、これで?」
彼の声がいつもより低く、わずかにかすれていた。
背後に立つ紗江の指先が、紙から離れない。
「……じゃあ、直してきます」
目が合う。
瞬間、空気が止まった。
言葉も息遣いも、なにもかもが、あの夜の続きを求めていた。
「……待て」
彼が席を立ち、彼女の腕をつかんだ。
「部長……」
「やめろ。名前で呼べ」
その言い方が、ひどくわがままで、そして懇願のように響いた。
「……光貴さん……」
たった一言で、彼の瞳が濡れた。
ふたりの間にあった机が、もはや無意味な壁になった。
彼の指が、頬を、顎を、唇をなぞる。
触れてはならない場所なのに、触れずにはいられない。
「やっぱり、おかしくなる……君に会うと……」
彼の囁きは、頬にかかる吐息とともに、熱を孕んでいた。
「私も……もう、戻れない……」
次の瞬間、壁際に追い込まれた。
見慣れた部長室の中、外には誰もいない――けれど、声は殺した。
「誰か来たら……」
「来てもいい。止められないから」
彼のキスは、前よりもずっと深く、乱暴で、愛おしい。
スカートの裾に指がかかり、頬が熱を帯びる。
「もう、何度も夢に見た……君を、こうして……」
その熱が、職場という緊張感すらも燃やし尽くしていく。
ふたりはもう、抗えない場所へと足を踏み入れていた。

