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夜をほどく
第8章 裏切りと救いのあわい
帰り道、吐く息が白くなっていることに気づいた。
冬が本格的に近づいている。けれど、紗江の頬はまだ熱を帯びていた。

会社の個室で触れ合った、光貴の手。
背中を這った指、唇に落ちた囁き。
彼の鼓動が、自分の胸の中でいまだ響いているような錯覚に、何度も足を止めそうになった。

背徳――その言葉を何度、頭の中で唱えても、心は逆の答えしか返さなかった。

「裏切ってるのに、救われてる……」

自宅のドアを開けたとたん、現実の匂いが押し寄せる。
夫の靴。テーブルに置かれた夕飯の準備。
そこに、光貴の姿はない。

けれど、胸の奥で疼くのは、罪悪感ではなかった。
彼に抱かれている時、自分は女だった。
“妻”でも“社員”でもなく、ただ“女”として求められ、存在していた。

その一瞬の肯定こそが、紗江にとっての救いだった。

***

翌朝、出社すると、デスクに光貴の筆跡が置かれていた。

《今夜、少しだけ会えないか》

たった一行。
それだけで、また体の奥が疼く。

「……ずるい人」

ぽつりと呟いたその瞬間、背後から声がした。

「なにがずるいの?」

同僚の結月だった。
煙草の香りとともに、紗江の横に腰を下ろす。

「またあの部長?」

図星を突かれ、視線をそらす。
結月はくすっと笑って、鞄から細いシガレットケースを取り出した。

「男ってさ、奥さんにちゃんと“夫”やってるほど、外で本性出すよ」

「……それって……」

「つまり、あんたが見てるのが“素”かもって話」

缶コーヒーの蓋を開ける音が、静かに響く。

「で? あんたはどうしたいの? 彼を欲しい? それとも、許されたい?」

紗江は言葉を返せなかった。

欲望と罪悪の狭間で揺れる心。
けれど、次第に明確になっていくのは――どんな形であれ、彼のそばにいたいという願いだった。
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