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夜をほどく
第18章 真昼の影

週明けの月曜、職場の空気が、わずかにざわついていた。
誰かが気づいている。確信はないが、そんな空気が背後からついてくる。
「ねえ、最近課長、やわらかくなったと思わない?」
そんな声が隣のデスクから聞こえてくる。
紗江はパソコンの画面から目を逸らさず、笑みを押し殺した。
――バレてもいい。でも、軽くは見られたくない。
光貴との関係は、もはや後戻りできない場所にあった。
だからこそ、凛とした態度で日々を過ごすことが、唯一の盾だった。
昼休み、喫煙所。
結月が煙を吐きながら、ふいに言った。
「……あんた、やっぱり離婚したでしょ」
「……なんでそう思うの?」
「目が、きれいになった。泣いたあとに、綺麗に澄んだ目してる」
紗江は笑った。
嘘のつけない、まっすぐな親友。
そのまなざしに、どこか救われる。
「それで……あの人とは?」
「……一緒になるって決めた。私の意志で」
結月は煙草を灰皿に押しつけて、まっすぐ言った。
「じゃあ、胸張っていきなよ。
誰が何を言おうが、あんたが選んだ“欲しい愛”なんでしょ?」
その言葉が、染み入るように心に落ちた。
夕方、会議室の扉を閉めたあと、光貴がふいに囁いた。
「今夜、会えるか?」
「うん……でも、少しだけでいい?」
「紗江が“欲しい分だけ”俺を使ってくれれば、それでいい」
そう言って見せた、ほんの少し崩れた笑顔に、
紗江の心がまた、強く引き寄せられていく。
夜、車の中。
ふたりきりの空間。
濃密な沈黙の中、キスを交わした。
時間が止まったかのように、ただ互いの存在を確かめ合う。
「……誰かに見られたら?」
「もう、かまわない。君を選んだから」
そんな台詞が、現実味を帯びて耳に残る。
ふたりはもう、隠される夜の愛ではない。
昼の影にも、愛は息づいている。
けれど、それと同時に――
これまで以上に、厳しい視線と現実が待っている。
それでも、愛した。
すべてを壊してでも、欲しかった。
その覚悟が、また新たな試練を引き寄せていく。
誰かが気づいている。確信はないが、そんな空気が背後からついてくる。
「ねえ、最近課長、やわらかくなったと思わない?」
そんな声が隣のデスクから聞こえてくる。
紗江はパソコンの画面から目を逸らさず、笑みを押し殺した。
――バレてもいい。でも、軽くは見られたくない。
光貴との関係は、もはや後戻りできない場所にあった。
だからこそ、凛とした態度で日々を過ごすことが、唯一の盾だった。
昼休み、喫煙所。
結月が煙を吐きながら、ふいに言った。
「……あんた、やっぱり離婚したでしょ」
「……なんでそう思うの?」
「目が、きれいになった。泣いたあとに、綺麗に澄んだ目してる」
紗江は笑った。
嘘のつけない、まっすぐな親友。
そのまなざしに、どこか救われる。
「それで……あの人とは?」
「……一緒になるって決めた。私の意志で」
結月は煙草を灰皿に押しつけて、まっすぐ言った。
「じゃあ、胸張っていきなよ。
誰が何を言おうが、あんたが選んだ“欲しい愛”なんでしょ?」
その言葉が、染み入るように心に落ちた。
夕方、会議室の扉を閉めたあと、光貴がふいに囁いた。
「今夜、会えるか?」
「うん……でも、少しだけでいい?」
「紗江が“欲しい分だけ”俺を使ってくれれば、それでいい」
そう言って見せた、ほんの少し崩れた笑顔に、
紗江の心がまた、強く引き寄せられていく。
夜、車の中。
ふたりきりの空間。
濃密な沈黙の中、キスを交わした。
時間が止まったかのように、ただ互いの存在を確かめ合う。
「……誰かに見られたら?」
「もう、かまわない。君を選んだから」
そんな台詞が、現実味を帯びて耳に残る。
ふたりはもう、隠される夜の愛ではない。
昼の影にも、愛は息づいている。
けれど、それと同時に――
これまで以上に、厳しい視線と現実が待っている。
それでも、愛した。
すべてを壊してでも、欲しかった。
その覚悟が、また新たな試練を引き寄せていく。

