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夜をほどく
第19章 咎の香り

社内に噂が広がるのは、時間の問題だった。
誰かが見たという。ふたりが同じホテル近くのコンビニに入る姿を。
そして、朝方に出てくる紗江を目撃したという者まで現れた。
「……知ってる?営業部の紗江さん、課長と……」
曖昧な言葉が、まるで毒のように職場に広がっていく。
笑いながら口にする者もいれば、哀れむような目で見つめてくる者もいた。
紗江は黙っていた。
噂に立ち向かうことも、否定することも、意味がないとわかっていた。
だが、そんな中――
「……あなた、課長と関係あるんですか?」
若い後輩の女性社員が、昼休みに言い放った。
まっすぐな目。嫉妬と軽蔑の混ざった声。
「正直、迷惑です。仕事に私情を持ち込まないでください」
その言葉に、さすがの紗江も胸が詰まった。
視界がわずかに揺れる。だが、顔は崩さない。
「……ごめんなさい。でも、私情で仕事してるつもりはないわ」
声は静かだった。
けれど、その奥にある感情は激しく揺れていた。
夜、光貴と密かに会った。
彼の顔にも疲れが滲んでいた。
「……俺が悪いんだ。すべて」
「違う。ふたりで選んだことでしょ。責めないで、自分を」
彼女の手が、そっと彼の頬に触れる。
その指先に、光貴は目を伏せた。
「君に……こんな思いをさせるくらいなら、やめた方がよかったのかもな」
「言わないで。そんなの、ひどい……」
震える声。滲む涙。
それは、愛を選んだ者だけが知る痛み。
「……ごめん。抱きしめさせて」
「……うん、お願い。全部忘れるくらい、強く」
抱き合いながら、ふたりの呼吸が重なり合っていく。
けれど、その夜の匂いには、確かに“咎”の香りが混ざっていた。
愛しながら、責められ、
欲しながら、罪を感じる。
それでも、求めることをやめなかった。
その熱がある限り、ふたりは“ひとつ”になれると思っていた。
だが、現実は、容赦なく爪を立ててくる。
誰かが見たという。ふたりが同じホテル近くのコンビニに入る姿を。
そして、朝方に出てくる紗江を目撃したという者まで現れた。
「……知ってる?営業部の紗江さん、課長と……」
曖昧な言葉が、まるで毒のように職場に広がっていく。
笑いながら口にする者もいれば、哀れむような目で見つめてくる者もいた。
紗江は黙っていた。
噂に立ち向かうことも、否定することも、意味がないとわかっていた。
だが、そんな中――
「……あなた、課長と関係あるんですか?」
若い後輩の女性社員が、昼休みに言い放った。
まっすぐな目。嫉妬と軽蔑の混ざった声。
「正直、迷惑です。仕事に私情を持ち込まないでください」
その言葉に、さすがの紗江も胸が詰まった。
視界がわずかに揺れる。だが、顔は崩さない。
「……ごめんなさい。でも、私情で仕事してるつもりはないわ」
声は静かだった。
けれど、その奥にある感情は激しく揺れていた。
夜、光貴と密かに会った。
彼の顔にも疲れが滲んでいた。
「……俺が悪いんだ。すべて」
「違う。ふたりで選んだことでしょ。責めないで、自分を」
彼女の手が、そっと彼の頬に触れる。
その指先に、光貴は目を伏せた。
「君に……こんな思いをさせるくらいなら、やめた方がよかったのかもな」
「言わないで。そんなの、ひどい……」
震える声。滲む涙。
それは、愛を選んだ者だけが知る痛み。
「……ごめん。抱きしめさせて」
「……うん、お願い。全部忘れるくらい、強く」
抱き合いながら、ふたりの呼吸が重なり合っていく。
けれど、その夜の匂いには、確かに“咎”の香りが混ざっていた。
愛しながら、責められ、
欲しながら、罪を感じる。
それでも、求めることをやめなかった。
その熱がある限り、ふたりは“ひとつ”になれると思っていた。
だが、現実は、容赦なく爪を立ててくる。

