この作品は18歳未満閲覧禁止です

  • テキストサイズ
夜をほどく
第24章 名前を呼ばれない日々
会社に戻っても、彼のデスクは空白のままだった。
その場所に新しい人間が座ることは、まだなかった。

「部長、いなくなっちゃったね」
昼休みに缶コーヒーを片手に現れたのは、いつもの同僚・千賀だった。

「……うん。あっけなかった」

「最後まで傲慢なまんまさ。でも、なんか変だったよ、あの人。最近」

千賀は、煙草をふかしながら天井を仰ぐ。
煙の向こうで、紗江は何も答えられずにいた。

「アンタさ……泣いた?」

「……泣いてない」

「嘘つき」

千賀はそう言って、缶コーヒーを差し出した。

「飲みなよ。そんで、今度さ、パーッと飲みに行こ。
 あんたが笑うまで、つき合ってやるからさ」

その言葉が、胸に沁みた。
何かが壊れても、世界は壊れない。
誰かが去っても、朝は来るし、昼休みもやってくる。

ただ——

「……あの人にしか、呼ばれなかったんだよね。下の名前」

ぽつりとつぶやいた言葉に、千賀が驚いたように振り返る。

「紗江、って」

彼の声で名前を呼ばれるたびに、身体の奥がざわめいた。
何度も抱かれた夜よりも、その一言の方が、ずっと――

「……もう誰にも、あの名前で呼ばれたくないの」

その言葉に千賀は何も言わなかった。
ただ静かに、肩に手を置いてくれた。

寂しさは、埋まらない。
でも、その空白の中に、少しずつ光が差し始めていた。

彼女の中で、彼はもう"好きな人"ではなく、"愛していた人"に変わろうとしていた。
/96ページ
無料で読める大人のケータイ官能小説とは?
無料で読める大人のケータイ官能小説は、ケータイやスマホ・パソコンから無料で気軽に読むことができるネット小説サイトです。
自分で書いた官能小説や体験談を簡単に公開、連載することができます。しおり機能やメッセージ機能など便利な機能も充実!
お気に入りの作品や作者を探して楽しんだり、自分が小説を公開してたくさんの人に読んでもらおう!

ケータイからアクセスしたい人は下のQRコードをスキャンしてね!!

スマートフォン対応!QRコード


公式Twitterあります

当サイトの公式Twitterもあります!
フォローよろしくお願いします。
>コチラから



TOPTOPへ