この作品は18歳未満閲覧禁止です

  • テキストサイズ
夜をほどく
第27章 彼の痕跡
「これ、前の部長の手書きメモ、残ってましたよ」

営業アシスタントの若い女性が、紗江のデスクに小さな紙を差し出した。
青いボールペンの文字。いつか見慣れた、あの筆跡。

(……光貴さん)

呼吸が浅くなる。
手が、かすかに震えた。

「紗江さんって、前の部長と近かったんですよね?なんか怖いけど、仕事できる人だったって評判でした」

「……うん。そうだったね」

とっさに言葉をつくろったが、胸の奥で疼くものがあった。
そこに記されていたのは、プロジェクトの進行についての細かな指示。
効率と人間心理の狭間を読むような、冷静で鋭いメモだった。

読み進めるうちに、無意識に笑みがこぼれた。

(ほんと、こんなところまで見てたんだ……)

彼の声がよみがえる。
「お前はここを甘く見る」「その先の反応を予測しろ」
無骨な言い方の中に、仕事への誇りがあった。
そしてそれを真正面から受け止めることができたのは——自分だった。

「……バカだな、私」

涙ではなく、苦笑が漏れた。
未練じゃない。懐かしさでもない。
ただ、確かに彼と並んで働いた日々が、ここにあったこと。
それを忘れたくないと思った。

「紗江さん、今度の社外案件、私に任せてくれませんか?」

声に顔を上げると、隣に立つ佐伯の目が真剣だった。

「あの、まだ不安もあるんですけど……ちゃんとやってみたいです」

彼の目を見つめ返しながら、紗江はゆっくりと頷いた。

「——わかった。頼りにしてる」

そう言えた自分に、ほんの少し救われた気がした。

心のどこかに、彼の痕跡を抱えながら。
でも、もう誰かの“代わり”じゃなく、自分の言葉で人と向き合える。
それが、たまらなく誇らしかった。
/96ページ
無料で読める大人のケータイ官能小説とは?
無料で読める大人のケータイ官能小説は、ケータイやスマホ・パソコンから無料で気軽に読むことができるネット小説サイトです。
自分で書いた官能小説や体験談を簡単に公開、連載することができます。しおり機能やメッセージ機能など便利な機能も充実!
お気に入りの作品や作者を探して楽しんだり、自分が小説を公開してたくさんの人に読んでもらおう!

ケータイからアクセスしたい人は下のQRコードをスキャンしてね!!

スマートフォン対応!QRコード


公式Twitterあります

当サイトの公式Twitterもあります!
フォローよろしくお願いします。
>コチラから



TOPTOPへ