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第30章 揺れる心

夕暮れ時、オフィスの窓から見える街の灯りが一つ、また一つと灯る。
紗江は佐伯と二人きりで残業をしていた。

「今日は、なんだか話しやすいですね」

佐伯の言葉に、紗江は思わず微笑む。

「そう？あなたが話しやすい人だからよ」

「いや、紗江さんのことが気になるからかも」

彼の真剣な視線に、紗江の心はざわついた。
戸惑い、期待、そしてどこか恐れもあった。

「ねぇ……」

佐伯がそっと手を伸ばし、紗江の手に触れる。
冷たさはなく、温もりだけが伝わる。

「こんなに優しくされると、余計にわからなくなるよ」

紗江は小さく息を吐き、目を閉じた。
あの人の荒々しさと優しさ、そして佐伯の誠実さ。
二つの違う温度が、心の中でせめぎ合っていた。

「大丈夫。焦らなくていい」

佐伯の声は静かに、しかし確かな響きだった。
彼の手が、紗江の手を包み込む。

夜は深まり、二人の距離は少しだけ縮まっていくのだった。