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夜をほどく
第32章 迷いの余韻

朝、カーテンの隙間から射し込む光が、紗江のまぶたをくすぐった。
ベッドの片隅には、昨夜のままのワンピース。
横に佐伯はいなかった。
彼は、夜明け前に「会議があるから」とだけ言い、そっと出ていった。
紗江は何も言えず、ただ背中を見送った。
――あの優しさは、本物だったのか。
それとも、私がただ、寂しかっただけ?
肌にはまだ、彼の手のぬくもりが残っていた。
けれど、心は奇妙な空白に包まれている。
キッチンに立ち、カップにコーヒーを注ぐ。
立ち上る香りとともに、昨夜の甘やかな記憶がよみがえる。
「……ごめんね、こんなふうになるつもりじゃなかったのに」
ひとりごとのように呟いた言葉は、静かな部屋に吸い込まれていった。
その日、会社で佐伯と顔を合わせたとき、彼はいつもと変わらぬ笑顔だった。
「おはようございます、紗江さん」
「……おはよう」
たったそれだけのやりとりが、やけに遠く感じた。
本当に欲しいものが、いまの自分にとって何なのか。
紗江はまだ答えを出せずにいた。
けれど、心の奥で、確かに何かが動きはじめていた。
ベッドの片隅には、昨夜のままのワンピース。
横に佐伯はいなかった。
彼は、夜明け前に「会議があるから」とだけ言い、そっと出ていった。
紗江は何も言えず、ただ背中を見送った。
――あの優しさは、本物だったのか。
それとも、私がただ、寂しかっただけ?
肌にはまだ、彼の手のぬくもりが残っていた。
けれど、心は奇妙な空白に包まれている。
キッチンに立ち、カップにコーヒーを注ぐ。
立ち上る香りとともに、昨夜の甘やかな記憶がよみがえる。
「……ごめんね、こんなふうになるつもりじゃなかったのに」
ひとりごとのように呟いた言葉は、静かな部屋に吸い込まれていった。
その日、会社で佐伯と顔を合わせたとき、彼はいつもと変わらぬ笑顔だった。
「おはようございます、紗江さん」
「……おはよう」
たったそれだけのやりとりが、やけに遠く感じた。
本当に欲しいものが、いまの自分にとって何なのか。
紗江はまだ答えを出せずにいた。
けれど、心の奥で、確かに何かが動きはじめていた。

