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夜をほどく
第36章 欲の深さ、愛の温度

彼の指が、そっと頬に触れた。
そのわずかな接触だけで、心がふるえる。
唇が重なる前から、すでに呼吸は乱れはじめていた。
「……大丈夫か?」
佐伯の低い声が、耳元でほどけていく。
それは問いというよりも、心をなだめる合図のようで――
紗江はそっと目を閉じ、うなずいた。
彼の唇が再び触れた。
今度は深く、熱を込めて。
確かめるように、慈しむように。
「こうしてると……全部、忘れられるんだな」
紗江の耳にかすれるように囁かれたその声に、胸の奥がきしんだ。
彼もまた、何かを抱えている。
そして、その痛みをわかり合えることが、ふたりの身体をより強く結びつける。
シャツのボタンが外されていくたびに、ひとつずつ鎧が脱げていくようだった。
強がりも、不安も、日々の後悔も。
彼の手は熱くて、繊細だった。
まるで、見えない傷痕をなぞるように優しく、そして執拗に肌の上を滑っていく。
「きれいだな……お前、こんなに……」
紗江は息を呑んだ。
彼の瞳が、まっすぐに自分を見つめていることに、心が震える。
欲望の中に、確かな感情が灯っていた。
「見ないで……そんなふうに、優しくしないで……」
紗江が絞り出すように言ったとき、佐伯の腕が彼女をきつく抱きしめた。
「やっと、ちゃんと手に入ったんだ。
俺はもう、お前を見ないふりなんてできない」
唇が、首筋へ、鎖骨へ、胸元へと降りていく。
肌が触れるたび、熱がこみ上げる。
理性の境界は、すでに曖昧になっていた。
シーツに沈む体の隙間に、過去も未来もない。
あるのは、いま――
この瞬間に宿った、確かな愛と欲望の温度だけだった。
そのわずかな接触だけで、心がふるえる。
唇が重なる前から、すでに呼吸は乱れはじめていた。
「……大丈夫か?」
佐伯の低い声が、耳元でほどけていく。
それは問いというよりも、心をなだめる合図のようで――
紗江はそっと目を閉じ、うなずいた。
彼の唇が再び触れた。
今度は深く、熱を込めて。
確かめるように、慈しむように。
「こうしてると……全部、忘れられるんだな」
紗江の耳にかすれるように囁かれたその声に、胸の奥がきしんだ。
彼もまた、何かを抱えている。
そして、その痛みをわかり合えることが、ふたりの身体をより強く結びつける。
シャツのボタンが外されていくたびに、ひとつずつ鎧が脱げていくようだった。
強がりも、不安も、日々の後悔も。
彼の手は熱くて、繊細だった。
まるで、見えない傷痕をなぞるように優しく、そして執拗に肌の上を滑っていく。
「きれいだな……お前、こんなに……」
紗江は息を呑んだ。
彼の瞳が、まっすぐに自分を見つめていることに、心が震える。
欲望の中に、確かな感情が灯っていた。
「見ないで……そんなふうに、優しくしないで……」
紗江が絞り出すように言ったとき、佐伯の腕が彼女をきつく抱きしめた。
「やっと、ちゃんと手に入ったんだ。
俺はもう、お前を見ないふりなんてできない」
唇が、首筋へ、鎖骨へ、胸元へと降りていく。
肌が触れるたび、熱がこみ上げる。
理性の境界は、すでに曖昧になっていた。
シーツに沈む体の隙間に、過去も未来もない。
あるのは、いま――
この瞬間に宿った、確かな愛と欲望の温度だけだった。

