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夜をほどく
第39章 深夜の告白、壊れていく均衡

時計の針は、日付をまたいでいた。
夫は出張で不在。子どもはいない。
部屋には、冷えたコーヒーの香りと、止まったテレビの無音だけが漂っていた。
紗江は携帯を握りしめたまま、躊躇していた。
この時間に連絡をするのは間違いかもしれない。
けれど、どうしても、声が聞きたかった。
〈起きてますか〉
LINEの文字を送信してから、心臓が跳ねた。
数秒後、画面に「既読」がついた。
〈今、近くにいる〉
たった一行の返事に、喉が鳴る。
玄関チャイムが鳴るまで、時間はかからなかった。
ドアを開けた瞬間、佐伯と視線が合った。
ネクタイを緩めたまま、顔は疲れているのに、その瞳はどこか、焦っていた。
「……ごめん。呼び出すつもりじゃなかった」
「呼び出されたんじゃなくて、来たんだ」
言いながら、彼はそっと部屋に入ってくる。
靴を脱ぐ仕草さえ、見慣れてしまったことに、紗江はふと気づく。
「眠れなかった。あなたの顔が……頭から離れなかった」
小さく吐き出したその言葉に、佐伯はすぐに答えなかった。
代わりに、彼は紗江の頬に手を添え、唇を重ねた。
深く、静かなキス。
求めるのではなく、確かめるような、切実な触れ方だった。
「俺さ、怖いんだよ」
吐き出すように言ったその声は、震えていた。
「お前のことが好きすぎて、全部壊しそうで怖いんだよ。
でももう、どうすればいいかわからねぇんだよ……」
彼の言葉が、胸に染み込む。
紗江もまた、抱えていた痛みをそのまま見せるように、佐伯の胸に顔を押しつけた。
「私も……壊れても、いいって思ってしまいそうで、怖いの」
触れ合った肌の熱が、言葉を奪っていく。
もはや理性も倫理も、置き去りにされていた。
――静寂の中、衣擦れの音だけが重なっていく。
それは、ただの快楽ではない。
破滅に似た、愛のかたちだった。
夫は出張で不在。子どもはいない。
部屋には、冷えたコーヒーの香りと、止まったテレビの無音だけが漂っていた。
紗江は携帯を握りしめたまま、躊躇していた。
この時間に連絡をするのは間違いかもしれない。
けれど、どうしても、声が聞きたかった。
〈起きてますか〉
LINEの文字を送信してから、心臓が跳ねた。
数秒後、画面に「既読」がついた。
〈今、近くにいる〉
たった一行の返事に、喉が鳴る。
玄関チャイムが鳴るまで、時間はかからなかった。
ドアを開けた瞬間、佐伯と視線が合った。
ネクタイを緩めたまま、顔は疲れているのに、その瞳はどこか、焦っていた。
「……ごめん。呼び出すつもりじゃなかった」
「呼び出されたんじゃなくて、来たんだ」
言いながら、彼はそっと部屋に入ってくる。
靴を脱ぐ仕草さえ、見慣れてしまったことに、紗江はふと気づく。
「眠れなかった。あなたの顔が……頭から離れなかった」
小さく吐き出したその言葉に、佐伯はすぐに答えなかった。
代わりに、彼は紗江の頬に手を添え、唇を重ねた。
深く、静かなキス。
求めるのではなく、確かめるような、切実な触れ方だった。
「俺さ、怖いんだよ」
吐き出すように言ったその声は、震えていた。
「お前のことが好きすぎて、全部壊しそうで怖いんだよ。
でももう、どうすればいいかわからねぇんだよ……」
彼の言葉が、胸に染み込む。
紗江もまた、抱えていた痛みをそのまま見せるように、佐伯の胸に顔を押しつけた。
「私も……壊れても、いいって思ってしまいそうで、怖いの」
触れ合った肌の熱が、言葉を奪っていく。
もはや理性も倫理も、置き去りにされていた。
――静寂の中、衣擦れの音だけが重なっていく。
それは、ただの快楽ではない。
破滅に似た、愛のかたちだった。

