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夜をほどく
第40章 余白に咲く痛みと温もり

朝が来るのが、こんなに早いなんて。
カーテンの隙間から漏れる光が、彼の肩をやわらかく照らしていた。
紗江は、彼の腕の中で目を覚ました。
浅く、けれど満ち足りた眠りのあと、夢のような現実が、まだ彼女の指先に残っている。
「……ごめん、まだ眠ってた?」
低い声。
佐伯は目を開けていなかった。けれど、背中にまわされた腕の力が、すこしだけ強くなった。
「ううん、起きてた」
静かな返事をすると、彼はそっと紗江の髪を撫でた。
その優しさが、逆に胸にしみた。
「俺、こんなこと言う資格ないかもしれないけど……お前が欲しかった」
その言葉に、紗江は返事ができなかった。
心の奥で、ずっと同じ気持ちだったから。
けれど、それを声にした瞬間、何かが決壊してしまう気がした。
佐伯はゆっくり身体を起こし、裸の背中を晒したまま、煙草を一本取り出す。
火を点け、吐き出した煙がゆらゆらと揺れて、部屋の空気と混ざっていく。
「これが夢だったら楽なのにな。目が覚めたら全部なかったことになってて、俺たち普通に仕事しててさ」
「……そうね。でも、夢じゃない」
ふたりとも、知っていた。
戻れない場所に踏み込んでしまったことを。
けれど、そこに咲いていた温もりは、幻じゃなかった。
唇の感触も、腕に感じた重みも、すべてが確かだった。
「また会ってくれる?」
佐伯の声は、まるで少年のようにか細く、正直だった。
「……うん。私も、もう離れられないの」
返したその言葉が、ふたりの罪を深くする。
それでも、今はまだ――その痛みすら愛しかった。
カーテンの隙間から漏れる光が、彼の肩をやわらかく照らしていた。
紗江は、彼の腕の中で目を覚ました。
浅く、けれど満ち足りた眠りのあと、夢のような現実が、まだ彼女の指先に残っている。
「……ごめん、まだ眠ってた?」
低い声。
佐伯は目を開けていなかった。けれど、背中にまわされた腕の力が、すこしだけ強くなった。
「ううん、起きてた」
静かな返事をすると、彼はそっと紗江の髪を撫でた。
その優しさが、逆に胸にしみた。
「俺、こんなこと言う資格ないかもしれないけど……お前が欲しかった」
その言葉に、紗江は返事ができなかった。
心の奥で、ずっと同じ気持ちだったから。
けれど、それを声にした瞬間、何かが決壊してしまう気がした。
佐伯はゆっくり身体を起こし、裸の背中を晒したまま、煙草を一本取り出す。
火を点け、吐き出した煙がゆらゆらと揺れて、部屋の空気と混ざっていく。
「これが夢だったら楽なのにな。目が覚めたら全部なかったことになってて、俺たち普通に仕事しててさ」
「……そうね。でも、夢じゃない」
ふたりとも、知っていた。
戻れない場所に踏み込んでしまったことを。
けれど、そこに咲いていた温もりは、幻じゃなかった。
唇の感触も、腕に感じた重みも、すべてが確かだった。
「また会ってくれる?」
佐伯の声は、まるで少年のようにか細く、正直だった。
「……うん。私も、もう離れられないの」
返したその言葉が、ふたりの罪を深くする。
それでも、今はまだ――その痛みすら愛しかった。

