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夜をほどく
第41章 ささやきは罪の香り
昼下がりのオフィスに、ひそひそとした声が漏れ始めていた。
佐伯と紗江の距離感が、まるで空気のように変わったのを、部下たちは敏感に感じ取っていた。

「最近、あの二人、なんかあるんじゃね?」

お調子者の一人が、デスク越しに隣席へ囁く。
いつもなら笑い飛ばすところだが、今回は違った。目に潜む好奇心は、確実に火をつけていた。

紗江は席で資料を見つめながらも、心は乱れていた。
上司の冷徹な目線と、あの夜の柔らかな吐息が混ざり合って、頭の中がぐるぐると渦巻く。

昼休み、喫煙所で梨花と顔を合わせる。
「ねぇ、バレてるんじゃない?」

「まだ、完璧じゃないけど……勘づかれてるかもね」

「こういうのって、さ、楽しむもんじゃない? 隠し事のスリルとか」

そう言いながらも、梨花の目はどこか冷静で、芯の強さが光っていた。

「でも、怖いわよね。会社でバレたら、終わりだもの」

「だからこそ、燃えるんだろうなあ」

紗江は煙草を口に咥え、火をつけた。
火花が灯るたびに、身体の奥で熱が疼く。
この秘密は、もう簡単には消せない。

そして、彼女は知っている。
佐伯もまた、同じように焦がれていることを。
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