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夜をほどく
第5章 夜の温度、肌の距離

部長の部屋は、意外にも簡素だった。
整理された書類の束と、壁際に置かれた棚。
余計な飾りも、甘さもない空間なのに、ソファに腰を下ろした瞬間、空気が急に湿り気を帯びる。
光貴は黙ったまま、グラスにウイスキーを注ぎ、彼女に手渡した。
グラスの縁から立ち昇る琥珀色の香りが、酔いよりもずっと強く、紗江の感覚を溶かしていく。
「まだ、帰らなくていいのか?」
低い声。
責めているのでも、誘っているのでもない。ただ、真っ直ぐだった。
「……帰りたくない夜も、ありますよ」
その一言が、最後の壁だった。
唇が触れた瞬間、彼は迷わなかった。
指先が頬をなぞり、顎を引き寄せ、深く、甘く、口づけた。
「……きれいだ」
耳元にこぼれた言葉に、紗江の呼吸が震える。
シャツの隙間から忍び込んできた手は、ゆっくりと、けれど確実に彼女の身体をなぞっていく。
輪郭をなぞるように、熱を移すように、触れるたびにそこが疼き始める。
「触れてほしかったんだろ……?」
その声は、ひどく優しく、同時に焦らすように意地悪だった。
「……ずるい人……」
「ずるくなったのは、君が俺を見たときからだよ」
ワイシャツのボタンが一つ、また一つと外されるたびに、心の奥が痺れる。
指先が、胸元をなぞると、息が勝手に跳ねた。
「声、我慢しなくていい」
その囁きが、堰を切る合図だった。
自分がどう喘いだかも、何を言ったのかも、もう覚えていない。
ただ彼の手と唇と体温が、何もかも奪っていくようで、気が遠くなった。
壊れたい。
この夜だけでいいから、求められる女になりたかった。
何度も交わされた口づけの中で、やっと紗江は「満たされる」ことを思い出していた。
整理された書類の束と、壁際に置かれた棚。
余計な飾りも、甘さもない空間なのに、ソファに腰を下ろした瞬間、空気が急に湿り気を帯びる。
光貴は黙ったまま、グラスにウイスキーを注ぎ、彼女に手渡した。
グラスの縁から立ち昇る琥珀色の香りが、酔いよりもずっと強く、紗江の感覚を溶かしていく。
「まだ、帰らなくていいのか?」
低い声。
責めているのでも、誘っているのでもない。ただ、真っ直ぐだった。
「……帰りたくない夜も、ありますよ」
その一言が、最後の壁だった。
唇が触れた瞬間、彼は迷わなかった。
指先が頬をなぞり、顎を引き寄せ、深く、甘く、口づけた。
「……きれいだ」
耳元にこぼれた言葉に、紗江の呼吸が震える。
シャツの隙間から忍び込んできた手は、ゆっくりと、けれど確実に彼女の身体をなぞっていく。
輪郭をなぞるように、熱を移すように、触れるたびにそこが疼き始める。
「触れてほしかったんだろ……?」
その声は、ひどく優しく、同時に焦らすように意地悪だった。
「……ずるい人……」
「ずるくなったのは、君が俺を見たときからだよ」
ワイシャツのボタンが一つ、また一つと外されるたびに、心の奥が痺れる。
指先が、胸元をなぞると、息が勝手に跳ねた。
「声、我慢しなくていい」
その囁きが、堰を切る合図だった。
自分がどう喘いだかも、何を言ったのかも、もう覚えていない。
ただ彼の手と唇と体温が、何もかも奪っていくようで、気が遠くなった。
壊れたい。
この夜だけでいいから、求められる女になりたかった。
何度も交わされた口づけの中で、やっと紗江は「満たされる」ことを思い出していた。

