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誰もいないベッドルームで読む小説
第2章 ふたりだけの揺れ
朝のラッシュ。押し込まれるように乗った電車で、私は彼女と再会した。偶然なんて信じてなかった。でも、目の前にいるその人は、まぎれもなく──あの夜、最後まで言葉を交わせなかった、彼女だった。

人波に押されて、身体が自然と近づく。肩が触れ合い、腕が重なり、背中にぴたりと彼女の胸のぬくもりが触れた瞬間、時間が巻き戻った気がした。

「……変わらないね、匂い。」

小さく囁かれた声が耳をくすぐり、膝の力が抜けそうになる。汗の匂いと香水の名残、呼吸の熱。誰も気づかないほど静かに、でも確かに、私たちだけの世界が密かに動き出していた。

手の甲がかすかに触れ合い、どちらからともなく、指先が絡んだ。つないではいけないと知りながら、その感触に心がほどけていく。

押し寄せる人の波に紛れて、彼女の唇が耳元に触れた。

「また、夢に出てきた。」

息を呑んだ。降りるべき駅はもう通り過ぎていたのに、私はまだ、彼女といたかった。
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