パソコンから！ケータイから！スマホから！無料でどこでも気軽に楽しめる官能小説サイト

第3章 花火の余韻

夜風が浴衣の裾を揺らしていた。
花火大会の人混みの中、偶然──あるいは必然のように、彼女と出会った。

隣に立つ彼女の視線の先に、知らない誰かがいる。彼と話していた時の笑顔を思い出し、胸がひやりとした。

「彼、彼氏？」

問いかけはしなかった。でも、花火の音に紛れて言葉が喉の奥で渦を巻く。隣で彼女は何も言わずに、煙と火薬の匂いの混じる空気を見上げていた。

次の花火が夜空に咲く頃、彼女の肩がそっと私の腕に触れる。
──意識して？ それとも、たまたま？

「なんか…変な顔してる」
彼女がふっと笑った。声がくすぐったくて、泣きたくなるほど懐かしかった。

「焼いてるの、もしかして？」
耳元で囁く声が、昔と同じ調子で、でも今は少し甘い。

誤魔化すように花火を見上げたけれど、視線の端で彼女の指が、私の指に重なるのが見えた。
誰にも見られないように、こっそりと──だけど、しっかりと。

焼きもちなんて、もう感じる資格ないと思ってた。でも、まだこんなに心が揺れるなんて。
花火が終わっても、胸の内側ではまだ、音が鳴り続けていた。