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雨にほどける
第10章 朝靄の余韻

目を覚ましたとき、窓の外はまだ薄く白んでいた。
雨は、止んでいた。
けれど、どこか遠くでまだ、しとしとと降っているような気がした。
涼の腕が、私の腰にまわったまま。
肌の温もりが、眠りのなかでも途切れずにあったことに、
胸の奥がじんわりと熱くなる。
「……おはよう」
囁くと、涼がゆっくりと目を開けた。
長い睫毛の向こうに、眠たげな眼差しが揺れる。
「おはよう、澪ちゃん……眠れた?」
「うん。よく眠れた」
ふたりとも裸のまま、
けれど不思議と、恥ずかしさはなかった。
むしろ、これまでにないほど、
深く、静かな安心が身体の底に満ちていた。
「夢みたい、だったな……」
思わずそう呟くと、涼が微笑んだ。
「夢じゃないよ。澪ちゃんの体温、ちゃんとここにある」
そう言って、私の手を自分の胸に導く。
鼓動が、確かにそこにあった。
重ねた手のひら越しに、
“ふたり”が存在することを、改めて感じる。
けれど――
時間は、止まってくれない。
壁の時計の針が、無情にも朝を知らせる。
「……もう、行くの?」
「うん。新幹線、昼には出るから」
名残惜しさを隠すように、私は微笑んだ。
涼も、それ以上は何も言わず、
ただそっと、私の髪を梳いた。
静けさのなか、
触れ合ったあとの匂いと、朝の匂いとが、
ホテルの白いシーツに、やさしくしみ込んでいた。
「また、会える?」
問いかけは、子どものようにか細くなる。
それでも、聞きたかった。
涼は、少しだけ間を置いて、
私の額に口づけを落とした。
「……きっと、また会いに行く。ちゃんと、私の足で」
その言葉に、
私は胸の奥で何かがふわりと溶けていくのを感じた。
手を握る。指先を重ねる。
ささやかな繋がりが、
まだ見えない明日を照らしてくれる気がした。
――たとえ別れが来ても、
触れた想いは、消えない。
私は、あの雨音の夜を胸に、
静かに目を閉じた。
雨は、止んでいた。
けれど、どこか遠くでまだ、しとしとと降っているような気がした。
涼の腕が、私の腰にまわったまま。
肌の温もりが、眠りのなかでも途切れずにあったことに、
胸の奥がじんわりと熱くなる。
「……おはよう」
囁くと、涼がゆっくりと目を開けた。
長い睫毛の向こうに、眠たげな眼差しが揺れる。
「おはよう、澪ちゃん……眠れた?」
「うん。よく眠れた」
ふたりとも裸のまま、
けれど不思議と、恥ずかしさはなかった。
むしろ、これまでにないほど、
深く、静かな安心が身体の底に満ちていた。
「夢みたい、だったな……」
思わずそう呟くと、涼が微笑んだ。
「夢じゃないよ。澪ちゃんの体温、ちゃんとここにある」
そう言って、私の手を自分の胸に導く。
鼓動が、確かにそこにあった。
重ねた手のひら越しに、
“ふたり”が存在することを、改めて感じる。
けれど――
時間は、止まってくれない。
壁の時計の針が、無情にも朝を知らせる。
「……もう、行くの?」
「うん。新幹線、昼には出るから」
名残惜しさを隠すように、私は微笑んだ。
涼も、それ以上は何も言わず、
ただそっと、私の髪を梳いた。
静けさのなか、
触れ合ったあとの匂いと、朝の匂いとが、
ホテルの白いシーツに、やさしくしみ込んでいた。
「また、会える?」
問いかけは、子どものようにか細くなる。
それでも、聞きたかった。
涼は、少しだけ間を置いて、
私の額に口づけを落とした。
「……きっと、また会いに行く。ちゃんと、私の足で」
その言葉に、
私は胸の奥で何かがふわりと溶けていくのを感じた。
手を握る。指先を重ねる。
ささやかな繋がりが、
まだ見えない明日を照らしてくれる気がした。
――たとえ別れが来ても、
触れた想いは、消えない。
私は、あの雨音の夜を胸に、
静かに目を閉じた。

