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第1章 香奈

「あっ！」

俺も彼女も顔を合わせた途端声を上げた。

「今回のプロジェクトで何か？」

発注先の会社でばったり会ったのは元妻だった。

「いえ、何でもございません。」
「私も、はい。」
「・・それでは、田中さんお願いします。」

俺は立ち上がり、配った企画書を順次説明に入った。
一通り説明が終わると

「田中さん、ありがとうございました。後ほどご連絡を差し上げます。」

俺は部屋を出ると、元妻の香奈が立っていた。

「どう？」
「まぁまぁかな？」
「君、ここに居たんだ？」
「うん、2年前からかな？紹介されて。」

「そうなんだ、・・・後で食事どう？」
「あら？良いわね。奢ってくれるなら。」

にこっと笑い入っていった。香奈は元妻、俺とは二つ違いの35歳。

俺は会社に戻り、次の企画の準備に入った。今回の件にしても合否は運みたいなもの。駄目ならまた違う発注先を見つけて来なければならないのだから。
16時過ぎ、携帯のメールが入った、香奈からだ。

『18時に駅前の居酒屋でどう？』
『了解』

俺は少し早めに居酒屋に入り、香奈の好きな物を注文しておく。
少し遅れて香奈が来た。

「ごめん！待った？」
「いや、そうでもないよ。」
「久しぶりよね？三年くらい？」
「そうだね。元気そうで何よりだね。」
「そっちも元気そう。」

運ばれた生ジョッキで乾杯をする。

「あー！美味い〜！」
「あははは。相変わらず豪快だなぁ。」
「何言ってるの、この為に仕事してるようなもんでしょ！」
「まぁ確かにな〜。　　しかし君とあそこで会うなんてねー？」
「意外？　私もそれなりに仕事をこなして来たからね。」
「それは認めるよ。一緒に暮らしていた時よりずっと良い。」
「ありがと！あなたは変わらないかな？」
「三年歳とった。」
「言わないでよ！私もそうなんだからー！」

お互い何やかんやと話は尽きない。
香奈と別れたのも喧嘩別れではなく、お互いが生きていくのには個人の方がが良いからだった。まぁ、結婚したのもお互いの利益になるかもと言う打算的な考えだったが。