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柔肌に泥濘んで、僕は裏返る
第1章 青天の霹靂
兎谷裕樹(とがい・ゆうき)は、小さなころから"胸の大きい女性"にだけ、なぜか目が吸い寄せられる癖があった。

裕樹自身にも、その理由を言語化することは難しい。

ただ一つ思い当たるきっかけは、幼少期に父親と一緒に連れ回された古本屋のせいだろう。

色んな古本屋を巡っていた当時の記憶は、今でも裕樹の中で鮮明に残っている。

四畳半ほどの店内に、雑多に積まれた雑誌や書籍。

ジャンルはバラバラで、綺麗に整理された書店とは大きく異なっていて、店内もどこか埃っぽさがあった。

当時は今ほど規制が厳しくなく、個人経営の店主が律儀に成人向け雑誌を隔離しているわけではなかった。

そのため、日常生活で本来は子供に触れさせないような──豊満な女性の雑誌が、店内のあちこちに無造作に置かれていた。

内容や意味は、当時の裕樹には理解できなかったが、性的というよりも、「女はこういう体をしている」と刷り込まれたようなイメージだった。

その影響なのか、高校生になった今でも、裕樹の視線は自然と胸の大きい人の方へ向いてしまう。

胸が揺れれば、見えなくなるまで目で追い、街で見かける女性の胸を、無意識に「〜カップくらいかな?」と妄想する。

思春期特有の反応と言われれば、当然なのかもしれない。

だがそれは、裕樹にとっては反射に近い習性だった。

夏は特に肌の露出が増え、街を歩くだけで、裕樹の目は慌ただしく動く。

(……あの人、相当デカいな。FかGくらい?)
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